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[ヒロシマの声 NO NUKES NO WAR] 核兵器 軍事的利益ない 元オーストリア外務省軍縮局長 トーマス・ハイノツィさん(67)=オーストリア

≪核兵器を全面的に違法化した核兵器禁止条約の制定を主導したオーストリアの元外務省軍縮局長。駐ジュネーブ国際機関代表部大使などを歴任し、2017年の制定交渉会議では副議長国の代表として尽力した。21年から広島平和文化センター(広島市中区)の専門委員を務める。≫

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 プーチン大統領へのメッセージはとても明確だ。「核兵器を使う」という脅しをやめなさい。何の意味もなさず、ロシアは世界で「のけ者」になるだろう。ウクライナ侵攻は国連憲章や国際法に違反している。ウクライナが及ぼすロシアへの脅威などないはずだ。自衛などの主張は理にかなわない。

 核兵器の爆発で放射線にさらされるのは標的だけではない。また、核の応酬により、先に使った国も多大な被害を受ける恐れがある。核兵器は市民に危害を及ぼす兵器であり、領土の獲得など軍事的な利益をもたらすものではない。

 ロシアだけでなく、他の核兵器保有国にも伝えたい。核軍縮のため、核拡散防止条約(NPT)体制の下で義務を果たすべきだ。国際情勢の厳しさは言い訳にならない。安全保障を「核の傘」に頼る国がいる限り、核兵器の保有や増強も続く。安全を保障するためにも、全ての国が核抑止から脱却しなければならない。

 欧州の中心部に位置するオーストリアは冷戦期に東西の軍事同盟に挟まれ、紛争地になる恐れがあった。人々は核攻撃から逃れる唯一の方法が廃絶だと学んだ。核兵器反対への政治的な総意もあり、禁止条約の制定で中心的な役割を果たしてきた。

 計り知れない苦しみを負ってきた被爆者は核兵器禁止の必要性を示す生き証人だ。禁止条約の交渉会議でスピーチしたカナダのサーロー節子さん(90)たち被爆者の証言は忘れられない。核兵器は死や苦しみをもたらすだけだ。ヒロシマが示してきたように。(聞き手は小林可奈)

(2022年12月24日朝刊掲載)

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