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社説・コラム

社説 中央図書館の移転問題 こんな決め方でいいか

 市民の疑問や懸念は解消できていないのに、広島市は計画を推し進めるつもりだろうか。

 県庁の北西、中央公園内にある中央図書館をJR広島駅前の商業施設エールエールA館に移転させる計画である。市は今月、現在地での建て替えと比較し、計画を変えない考えを市議会に示していた。

 夏に募集した市民の意見とは正反対の結論だ。「現在地・中央公園内での建て替え」意見が「A館・広島駅前への移転」より4・8倍も多かった。これでは市民は納得できまい。説明も議論も不十分なまま、市民の望まぬ結論を押し付けることを、市は避けなければならない。

 なぜA館なのか、それがよく分からない。市のまとめた現在地建て替えとの比較資料では、優位性を強調している。

 広島駅というJR、バス、路面電車など広域的な公共交通の結節点に近いのは確かだろう。屋根付きのバリアフリー通路で駅につながり、荒天でも移動できることは便利に違いない。

 ただ広島駅に近いことばかり力説している印象が拭えない。例えば広島の歴史・文化・産業などを学べる場の提供機能。観光やビジネスで国内外から広島を訪れる人の利用が現在地より増えるという理屈だ。しかし駅前に資料をそろえた観光案内所を設ければ済む話だろう。

 「平和への思い共有」機能は、平和記念公園から徒歩圏内にある現在地より、駅に近いA館が優れている、とも。首をかしげざるを得ない評価だ。

 逆にA館のマイナス面に関する分析は少ない。中央図書館は区の図書館に比べ、資料の収集保存機能の充実が求められる。そのための閉架書庫はメインの3フロア以外の階に設けるというが、今のようなスピーディーな対応ができるのか。移動図書館車や各区の図書館と結ぶ配送車などのスペースは確保できるのか。無料の駐輪場がなくなり中高生たちが困らないか…など疑問が幾つも浮かんでくる。

 財政面でもA館が安上がりだという。ただ、現在地建て替えは耐用年数が約60年、A館への移転の約40年より長い。1年当たりの経費は現在地建て替えの方が安い。そんな意見もある。

 市の資料は細かく見るほど、A館への移転という結論ありきで作成したように思えてくる。

 A館ありきは、経緯からも色濃くにじむ。当初は中央公園内での建て替え案だった。ところが、昨年夏、移転先候補に広島駅周辺を突然加え、11月にはA館への移転方針を表明した。

 A館を管理運営する市の第三セクター「広島駅南口開発」が苦境に陥っており、その救済のための移転ではないか。そんな疑念は深まる一方だ。

 市議会が今年3月、全会一致で可決した付帯決議を思い起こしたい。移転先は、現在地建て替えを含めて詳細に比較した上で、関係者に丁寧に説明し理解を得て決める―。関連予算を認める代わりに、市にくぎを刺した。今のように拙速な決め方で計画を進めれば、付帯決議を軽んじることになる。

 そもそも図書館は知の集積場所として、都市の文化レベルを表す施設である。慎重に考えるため、A館移転と現在地建て替えのどちらを望むか、市民に再び問うべきだ。その意見を基に議論を尽くさねばならない。

(2022年12月26日朝刊掲載)

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