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社説・コラム

著者に聞く 「迫りくる核リスク <核抑止>を解体する」 吉田文彦さん

矛盾と限界 被爆地から問う

 「核兵器なき世界」の実現を阻む最大の壁が「核抑止」への依存だと言われる。「大量破壊兵器を持ち、反撃する能力がわが国にはある」と相手に認識させ、攻撃を思いとどまらせる―。だから核兵器は必要なのだと。ロシアによるウクライナ侵略と「核のどう喝」に対し、米国など核保有国、日本をはじめ「核の傘」の下の国はさらに核抑止に重心を置く。被爆地の願いからますます乖離(かいり)していく。

 だが、にらみ合いは常に使用に発展しうる。地球全体の壊滅と表裏一体だ。「凄惨(せいさん)な『現場』を知るのが、原爆体験者。被爆者の現実主義に立脚しながら、核抑止論に分け入り矛盾と限界を洗い出したい」

 朝日新聞記者として国際報道の現場を歩き、現在は長崎で研究生活を送る。原点は米核戦略を学んだ入社5年目の米大学院留学だった。核保有国の実態を知り被爆国に知らせる、との初心は本書にも通底している。

 誤作動や誤認で核使用寸前となった事例をはじめ、過去と現在、将来にわたる現実の危機を指摘。核抑止に頼らない安全保障を目指す政策の選択肢を示す。被爆地の訴えとは一見異質な試みの紹介も。北東アジアであり得る核使用シナリオを検討する共同研究である。「使用のリスクはこんなに」と提示することが、「使わせない」「なくそう」の訴えを強め、議論の共通の土台になると考える。

 ウクライナ危機が映し出すのは「核抑止への信奉に潜む脆弱(ぜいじゃく)性。内実もあいまいなものに国民の命を預け続けるのか」と被爆国の政治を問う。同時に「昨年発効した核兵器禁止条約をもっと生かそう」とも。気候変動問題への対応も、核使用で無に帰する。「条約こそグローバルな課題解決の要、という認識の裾野を広げたい」。そんな未来を担う被爆地長崎の大学生たちに希望を託す。(金崎由美) (岩波新書・990円)

よしだ・ふみひこ
 1955年京都市生まれ。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)教授、センター長。著書に「核のアメリカ」など。

(2022年12月25日朝刊掲載)

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