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社説・コラム

[2023広島サミット] 首脳の資料館訪問 期待 ドイツ駐日大使 フォン・ゲッツェ氏に聞く

核抑止 現状では断てず

 ドイツのクレーメンス・フォン・ゲッツェ駐日大使が、2023年5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、中国新聞のインタビューに応じた。G7首脳の原爆資料館(中区)訪問を期待。ロシアが核使用も辞さない構えを見せる中、米国の核兵器をドイツ国内に置く「核共有」政策を現状では維持せざるを得ないとの考えを示した。(編集委員・田中美千子)

  ―広島市を訪れた経験はありますか。
 2014年4月、当時は外相だったシュタインマイヤー大統領と共に訪れた。被爆の記憶を受け継ぎ、今なお国際社会に反核を訴える広島市の姿勢に感心した。経済、文化面などの魅力にあふれる街を再建した市民の力にも驚かされた。

 原爆資料館の見学では、当時の惨状や人々の苦しみが伝わってきた。心に刻まれる展示だ。今年7月、ベアボック外相と共に訪れた長崎市では、被爆者とも面会した。広島サミットでは、議長国日本がそういったプログラムを組んでくれると思っている。広島を訪れるなら、その歴史を直視しないわけにはいかないだろう。

  ―ロシアのウクライナ侵攻が続く中、広島でのサミット開催が決まりました。どう受け止めていますか。
 広島は戦争の恐ろしさを象徴する地だ。日本は世界へシグナルを送りたいのだろう。われわれはルールに基づいた国際秩序を守り、平和のために尽くす、と。  ロシアはウクライナで民間施設を攻撃するなど残虐行為を重ね、プーチン氏は無責任にも核を使うと脅している。ドイツはG7各国と連携し、ロシアへの制裁を続ける。ウクライナに自衛のための武器を提供し、100万人の難民を受け入れるなど、人道支援にも当たっている。

  ―ドイツにも米国の核兵器が配備されています。
 ドイツは「核兵器のない世界」を支持し、政治的に追い続けている。イラン核合意(15年)や北朝鮮の核開発を食い止めるための制裁に力を注いできたのも、このゴールに近づくためだ。核兵器禁止条約の第1回締約国会議にも、オブザーバー参加した。さまざまな国と直接的に話すことが重要と考えるからだ。

 しかし、北大西洋条約機構(NATO)加盟国として、核共有を含めたNATOの戦略概念を基本としている。現にロシアのように核を所有し、脅しに使う国がある限り、現状として核抑止を断つことはまだできない。

  ―サミットでは他にどんな議論を期待しますか。
 ロシアへの対応やインド太平洋の地域問題は当然、取り上げられるだろう。ドイツは今年の議長国として他の重要テーマも扱ってきた。ウクライナ侵攻が引き起こした世界的なエネルギーや食料不足の問題、気候変動対策、途上国との連携などだ。これらも着実に日本へ引き継がれるだろう。

Clemens von Goetze
 1962年ベルリン生まれ。90年にドイツ外務省入省。駐イスラエル大使、駐中国大使などを歴任し、2021年9月から現職。

(2022年12月25日朝刊掲載)

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