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社説・コラム

社説 政府予算案 財政規律が緩み過ぎだ

 あまりに財政規律のタガが外れている。政府がきのう閣議決定した2023年度予算案は、一般会計の歳出が過去最大の114兆3812億円に上った。歳入の3割強を国債で賄う。

 社会保障費が一段と伸び、36兆8889億円を見込む。防衛費は6兆8219億円と過去最大に増やした。さらに、将来の防衛財源を確保する枠組みとして「防衛力強化資金」を新設。別に3兆3806億円を繰り入れる。

 防衛力強化はそもそも、政府が安全保障環境の変化を強調するだけで国民に十分説明せず、国会での議論も尽くさぬまま決定した。しかも27年度までの5年間で総額43兆円と「額ありき」で進める。

 仮に必要とするならば、中身を積み上げて金額を示し、全体の歳出を見直した上で税などの財源を確定させるべきだ。それが予算編成の原則だろう。

 岸田文雄首相は防衛費倍増で増税を指示しながら、自民党内の反発で実施時期の決定を先送りした。暮らしや経済を支える他の予算にしわ寄せが行きかねない。そのあおりで国債頼みがさらに進む危険性もはらむ。将来世代に対して無責任過ぎる。

 一般会計の100兆円超えは5年連続。新型コロナウイルスや物価高対策の補正予算と合わせ、膨張編成が常態化した。岸田政権は、社会保障費でも国民負担を増やす議論を既に始めている。その前に予算編成の常道に立ち返る方が先であろう。

 概算要求を形骸化させたのは最たる緩みだ。金額の上限基準を設けて政策を精査する仕組みだが、金額を示さない「事項要求」が異例に積み上がった。防衛費が大半で、敵基地攻撃能力(反撃能力)そのものである米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得費も盛り込んだ。これこそ事前に必要性や効果を示すべき予算ではないか。

 一方で、歳出改革は置き去りにされたままだ。公共事業費など、予算を計上しながら支出されず翌年度に繰り越した額が過大になっている。社会保障費の増大をどう抑えるか、議論を尽くした様子はうかがえない。

 予備費に22年度と同じ5兆円を計上したのも問題だ。国会の議決なしに使い道を決められ、透明度が低い。コロナ禍や物価高対策が名目だが、もはや予測できぬ緊急事態とは言い難い。

 借金依存への危機感が感じられない予算である。首相は国債の新規発行額を22年度より抑えたと胸を張った。しかし景気回復で過去最高の税収が見込めるという一過性の要因が大きい。

 しかも22年度の補正予算では、自民党の積極財政派の圧力を受けて国債で安易に賄ったり、予備費をさらに計上したりする手法がまかり通った。

 そろそろ国民をあざむくような手法を見直し、将来を見据えた財政運営の在り方を議論し直す必要がある。

 首相は、企業の脱炭素への投資を後押しするため10年間で20兆円規模の新たな国債発行で資金調達をする方針と、子ども関連予算の倍増を掲げる。ならば、ないがしろにし続けてきた財政規律を取り戻す道筋を具体的に示す局面であろう。

 国会審議は例年に増して責任が重くなる。とりわけ防衛費は精査を尽くし、過大な増加を食い止める必要がある。

(2022年12月24日朝刊掲載)

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