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連載・特集

回顧2022 中国地方から <8> ウクライナ侵攻とヒロシマ

被爆地の訴え 重み増す

 「原爆の威力は想像を絶する」。10日、広島市南区であった核兵器廃絶への道筋を探る国際賢人会議の初日。核兵器保有国の米ロを含む各国の委員を前に、広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(80)は語気を強め、最後に訴えた。「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ!」。老いを深める被爆者たちは、この一年で増した核の脅威にあらがうように声を上げ続けてきた。

核兵器使用示唆

 2月24日、ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始。「ロシアは核保有国だ。干渉したり脅威を与えたりする者は歴史上、前例のない結末を迎える」と核兵器使用を示唆したプーチン大統領の言葉に、被爆地は怒りと危機感を一気に高めた。

 「NO WAR」「ヒロシマ・ナガサキをくりかえすな」―。被爆者や市民が、反核平和や早期の停戦を求める行動を各地で展開。青と黄のウクライナ国旗の色で彩った横断幕などを掲げ、連帯を示した。

 3月、原爆ドーム(中区)前の集会には、母親がウクライナ出身で、ロシアにもゆかりがある南区の高校生、平石大志さん(17)が参加。「両国の人々が血を流している現状は心苦しい。一刻も早く収まってほしい」と祈りをささげた。

 この夏は、核兵器禁止条約の第1回締約国会議(6月、オーストリア・ウィーン)、7年ぶりの核拡散防止条約(NPT)再検討会議(8月、米ニューヨーク)と重要な多国間交渉が相次いだ。そこにも被爆者が新型コロナウイルス禍の中、高齢を押して渡航し、被爆体験を証言した。

NPT会議決裂

 再検討会議でニューヨーク入りしたのは、もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(78)。平和集会では差別や偏見に苦しんだ経験を語り「核兵器は絶対悪であり、悪魔の兵器」と廃絶を呼びかけた。だが、4週間にわたる再検討会議は結局、ウクライナを巡る文言に異を唱えたロシアの反対で決裂に終わった。

 国家が核兵器廃絶へ歩み寄れない中、都市の連帯を掲げる平和首長会議(会長・松井一実広島市長)は設立40年の記念総会を10月に広島市で開催。核兵器に頼る為政者に政策転換を促すアピールを採択した。ただ、首長会議は昨年定めた指針で核兵器廃絶の期限を設定しないまま。市は平和記念式典へのプーチン大統領の招待を見送り、日本政府の外交姿勢に同調した。

 その被爆国政府は今年も核兵器禁止条約の参加へ踏み出さなかった。68カ国・地域が批准してなお、日本は蚊帳の外にいる。オブザーバー参加さえしなかった締約国会議では、赤十字国際委員会(ICRC)のユース代表として出席した短大生、奥野華子さん(21)=中区出身=が「核兵器と気候危機という負の遺産を、未来の世代に残してはいけない」と発言。老いる被爆者を助け、若者たちが国際社会で躍動した。

 23年こそ、ウクライナ侵攻であらわになった分断の連鎖を断ち切り、核兵器のない平和な世界へ国際社会は進めるのか。被爆78年を迎えてなお被爆地の訴えは重みを増す。(小林可奈) =おわり

(2022年12月24日朝刊掲載)

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