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脱原発のうねり 形に 島根 条例請求署名9万2000人

 中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の地元で、脱原発条例をつくろう―。こう呼び掛けた島根県の市民団体が、条例制定に向けた県への直接請求で署名活動を終え今月、全19市町村選管に署名簿を提出した。再生可能エネルギーの普及に県が責任を持つ「エネルギー自立」の理念に、2カ月間で有権者(約58万人)の15・9%に上る約9万2千人の賛同が集まった。主義主張や党派を超えた民意が形成された形だ。(樋口浩二)

 「会って頼めば9割以上が署名してくれた」。条例制定を求める市民団体「島根原発・エネルギー問題県民連絡会」の保母武彦事務局長(72)=島根大名誉教授=は6日、松江市での記者会見で強調した。接触できなかった有権者も多く「時間があればもっと集まった」とも語った。

連日8000人活動

 昨年10月に始まった活動。署名集めを担う受任者約8千人が連日、県全域で戸別訪問や街頭活動を重ねた。「原発関連の仕事をする人も『原発はリスクが高過ぎる』と支持してくれた」。受任者で、原発が立地する同市鹿島町の農業安達進さん(60)は振り返る。

 賛同者には、福島第1原発事故を受けた根強い不安や、処分方法が確立されない「核のごみ」への懸念が強かったという。同市古曽志町の主婦石原純子さん(65)は「原発を子や孫に引き継ぎたくない。今すぐは無理でも、県には決別するための努力をしてほしい」と署名した。

 多くの賛同を得ようと、連絡会が貫いたのが「目先の原発稼働の是非にこだわりすぎない」(保母事務局長)との方針だった。原発からの「計画的な脱却」と、太陽光や木質バイオマスエネルギーの普及に県が取り組むとした条例案の趣旨を繰り返し説明した。

 福島の事故の後、大阪市や東京都、静岡、新潟県で、原発稼働を問う住民投票条例を求めた市民運動があった。だが、署名割合は最多の静岡県でも有権者の5・5%と、今回の約3分の1にとどまった。

「貴重な民意」

 原子力規制委員会が16日、2号機の安全審査を始めるなど島根原発の再稼働手続きが本格化する中、条例制定の是非は2月開会の県議会定例会で審議される。

 署名した松江市上乃木2丁目の自営業田中隆雄(たかひろ)さん(44)は「国任せでなく、エネルギー政策を自分の事として考えた人が多いのではないか。短期間で集まった貴重な民意を尊重してほしい」と訴えている。

直接請求
 地方自治法が定める住民の参政権の一つ。請求内容について、2カ月間で有権者の50分の1以上の署名を集めて県や市町村に提出すれば、首長は意見を付けて議会に諮る必要がある。必要数約1万1600人の8倍の署名を集めた今回の請求活動では、19市町村選管が1月中に署名簿を審査。県民への縦覧を経て2月上旬、条例制定が本請求される見通し。

(2014年1月13日朝刊掲載)

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