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社説・コラム

社説 岩国爆音第2次訴訟 艦載機の影響をただせ

 米軍岩国基地(岩国市)への空母艦載機約60機の移転が完了して5年が迫る。司法の場で、その影響が初めて問われる。

 周辺住民436人がきのう、将来分も含めた騒音被害に対する総額5億9千万円余りの損害賠償と早朝・夜間の飛行差し止めなどを国に求める訴訟を山口地裁岩国支部に起こした。「第2次岩国爆音訴訟」である。

 昨年4月、最高裁で広島高裁判決が確定した第1次訴訟では原告が計7億3千万円余りの賠償を勝ち取る一方、飛行差し止めなどは認められなかった。しかも艦載機移転を踏まえないまま結審したため、その後の騒音の状況は反映されていない。

 周辺住民に残る不信感は根強い。2010年に完成した基地滑走路の沖合移設は市民の悲願だった。もともと部隊の増強など想定しなかったのに米軍再編計画に乗じ、艦載機部隊が反対を押し切って厚木基地(神奈川県)から移され、機数が倍増した。新たな裁判を通じて極東最大級に膨らんだ基地の実態が、ただされることを望みたい。

 原告団は全員、各地の基地訴訟で賠償の目安である「うるささ指数(W値)」が75以上の区域の住民だ。第1次訴訟で賠償を得て、引き続き求める人もいれば新たに提訴する人もいる。焦点となるのがW75の区域に暮らしながら前回、慰謝料の対象外だったケースだろう。約1キロの沖合移設により負担が減ったと見なされたためで、原告側は判断の見直しを求めている。

 確かに艦載機移転後の騒音を考えると、沖合移設事業が目的としたはずの「負担の軽減」が果たされたとは到底思えない。弁護団によれば旧滑走路時代と同じような激しい騒音に戻り、特に基地北側の地区で騒音回数が大幅に増加している。状況の悪化を実感する住民は多い。

 こうした事態は艦載機の移転が浮上して以来、住民たちが繰り返し懸念してきたことだ。

 原告側が飛行差し止め請求の根拠とするのが憲法で保障される人格権、環境権、平和的生存権である。現に夕方や深夜の騒音が増え、睡眠障害やストレスなどの健康被害も心配される。市街地上空の戦闘機旋回などで事故への不安も絶えない。

 一方で市民の側には基地機能の強化を容認するか、我慢しようという「諦め」の空気もあると聞く。基地と共用の岩国錦帯橋空港は10周年を迎えた。市と近隣市町への特別交付金として21億円余りが23年度防衛省予算案にも計上された。ただ基地との「共存」と、住民の安心・安全を守る視点は別の次元の話であり、泣き寝入りでいいはずがない。

 沖縄の普天間、嘉手納をはじめ過去の基地訴訟の判例から考えると、岩国の第2次訴訟も賠償は認められる可能性が高い。しかし住民訴訟のたびに国が賠償を繰り返す構図はあるべき姿ではない。国家賠償とは不法行為を認め、同じことは繰り返さないと反省の意味を込めて国民に支払うものであり、一時しのぎの解決金では決してない。

 日米地位協定があるとはいえ基地の現状を見て見ぬふりをする。違法状態と司法が断じる騒音や、それをもたらす米軍機の飛行を改善させることなく漫然と放置する。そうした国の姿勢を、足元にある基地の街から問い直す訴訟の意味は重い。

(2022年12月27日朝刊掲載)

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