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連載・特集

イワクニ2022 高まる出撃の拠点性

 米軍岩国基地(岩国市)は2022年、台湾海峡を巡る米中の緊張が高まり、北朝鮮が弾道ミサイルを立て続けに発射したのを受け、出撃の拠点となった。21年に続いて空軍機の飛来が相次ぎ、騒音が増えるなど市民生活に影響が出た。一方で、米軍再編の交付金に代わる新たな制度が始まり、岩国市など基地周辺の自治体に交付されるようになった。(有岡英俊、川村奈菜)

最前線

緊迫東アジアが背景 増える騒音

 緊迫する東アジアなどの国際情勢を受け、米軍が岩国基地を出撃の拠点とする動きが際立つ一年だった。空軍の部隊も加わり、イワクニが米軍の最前線であると改めて印象付けた。

 6月、米国から空軍ステルス戦闘機のF35AとF22ラプターの計30機が相次いで飛来してきた。海軍と海兵隊の基地である岩国に30機もの空軍機が展開するのは異例。約1カ月間にわたり訓練した。

 その間、基地周辺の騒音は増した。岩国市が測定した70デシベル以上の騒音は基地の北側で1082回を数え、前年の同じ期間に比べ倍増した。広島市中心部でも空軍機とみられる機体の目撃情報が相次ぎ、広島市や広島県に騒音への苦情が80件以上寄せられた。

 米軍は6月下旬、F35AやF22に加え、岩国基地所属のF35Bなど多くの戦闘機を東シナ海に向かわせ、一部は日中の中間線を越えて中国本土に接近させた。台湾海峡で軍事活動を強める中国をけん制し、中国も戦闘機を飛ばして対抗した。

 約60機の空母艦載機も米国の抑止力を示す役割を担った。ペロシ米下院議長が8月上旬に台湾を訪れると、中国軍は台湾周辺で大規模な軍事演習を繰り広げて対抗し、空母ロナルド・レーガンと艦載機は台湾南東のフィリピン海域で警戒や監視に当たった。艦載機が8月に岩国へ一時帰還した際、岩国基地報道部は「インド太平洋地域の安全保障と安定のため、岩国に前方展開している」と説明した。

 10月末から11月上旬にかけて、複数のF35Bが岩国基地を飛び立った。米韓両軍が韓国周辺で行った大規模な訓練に参加したとみられる。北朝鮮が9月から弾道ミサイルを立て続けに発射し、核攻撃の能力を高めようとする中、米韓は17年以来5年ぶりに合同で訓練し、圧力を強めた。

 空軍機の飛来は21年3月から相次ぎ、22年6月に岩国基地の司令官に着任したリチャード・ラスノック大佐は「軍の属性を超えた運用や即応力を発揮していく」と述べた。米軍が基地内のジェット燃料タンクを増強し、タンカーが着岸できる埠頭(ふとう)を整備する計画も浮上した。今後、出撃の拠点性がさらに高まる可能性もある。

港湾

滑走路と隣接 艦船運用加速

 極東最大級の航空基地である岩国基地で22年、艦船や運搬船の寄港も増えた。岩国市は26日現在、米海軍を中心に延べ17隻の入港を確認し、21年の14隻を上回った。在日米軍基地で唯一、滑走路と港湾施設が隣接し、運用が加速した。

 艦船の寄港は1月13日、海軍の遠征洋上基地艦ミゲルキースから始まった。上陸作戦に用いられるドック型揚陸艦アシュランドが2月、強襲揚陸艦トリポリが5月、いずれも初めて着岸した。5月には21年10月から4度目となるミゲルキースが入港した。米軍側は「補給などのため」と説明するが、滞在期間は運用上の理由で答えなかった。

 岩国基地は自衛隊と共同利用する。陸上自衛隊と航空自衛隊が配備する輸送機オスプレイとE2D早期警戒機を運ぶ船も入った。

 港湾施設は補給物資の荷揚げを目的に国が整備した。05年度から使われ、艦上訓練の利用もあった。岩国市と県は艦船の母港や定期的な寄港地とならないよう、国に繰り返し要請してきた。市は今後、米軍の動きや生活への影響について数年にわたり情報を集め、見解をまとめる考えだ。

新交付金

防災や交流に活用

 米空母艦載機が岩国基地に移ってくる協力と負担の見返りに、国が支給してきた再編交付金に代わる新制度が22年度スタートした。名称は米空母艦載機部隊配備特別交付金。岩国市など基地周辺の2市2町に15年間出し、再編交付金と同じ防災や福祉、医療など14種類の事業に使える。

 岩国市は、15年間で総額201億5千万円だった再編交付金と同規模を想定する。22年度の交付額は13億4600万円の見通し。ポンプ場の整備や看護師の確保、道路の拡幅などに充てる。JR岩国駅東口に3月開いた英語交流センター「PLAT(プラット) ABC」の運営にも使う。整備費の9割は再編交付金で賄った。11月末までに約2万1千人が利用。市民が英語を学び、外国人と親睦を深めた。米海兵隊員ゼイデン・ゴールドさん(21)は「基地の外の日本人と出会い、文化を学べる」と通う。

 福田良彦市長は新交付金を「艦載機の移駐で騒音などの今後も抱える地元負担に措置された」と受け止める。一方で、岩国基地の機能がさらに強化されないよう、米軍や国と向き合う姿勢も求められる。

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■1月

6日 正月三が日に米軍岩国基地周辺で測定した航空機騒音は8回で、前年の1回に比べ増加したと岩国市が公表
9日 岩国基地で新型コロナウイルスの感染が急拡大し、岩国市と隣の和木町がまん延防止等重点措置の対象区域になる
13日 岩国基地など在日米軍基地がある自治体での新型コロナの感染拡大について、林芳正外相(山口3区)が基地由来の可能性を言及▽米海軍の遠征洋上基地艦ミゲルキースが2021年10月以来2度目の寄港

■2月

3日 岩国基地で米軍機のタイヤがパンクし滑走路が一時閉鎖。共用する岩国錦帯橋空港で旅客機が欠航
6日 知事選で無所属現職の村岡嗣政氏が3選を果たす
15日 新型コロナの影響で春の大型連休に開く岩国基地の公開イベント「フレンドシップデー」の中止が決定
18日 岩国市の市民団体「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク(瀬戸内ネット)」が岩国基地所属の戦闘機によるアクロバット飛行を市に抗議=写真
23日 陸上自衛隊の輸送機オスプレイ2機が岩国基地に陸揚げ
25日 米海軍のドック型揚陸艦アシュランドが岩国基地に初寄港

■3月

9日 南シナ海で1月、空母での着艦事故を起こした米海軍のステルス戦闘機F35C1機が岩国基地に運び込まれる
17日 岩国基地に一時所属する米海兵隊部隊の所属機とみられる戦闘機が、米本土で墜落事故を起こし、米海軍安全センターが最も重大な事故と判断していたことが判明
26日 岩国市が整備した英語交流センター「PLAT(プラット) ABC」がJR岩国駅東口にオープン

■4月

1日 岩国市は在日米軍の再編交付金に代わる新制度の22年度の交付額が13億4600万円と防衛省から内示があったと発表
6日 岩国基地周辺で市の21年度の騒音測定回数が3万回を超え、滑走路が沖合に移った10年度以降で最多となったことが判明
8日 岩国基地が新型コロナの感染者数の公表を取りやめる
15日 ミゲルキースが3度目の入港
27日 中国四国防衛局が、岩国基地の航空機騒音で国が住宅の防音工事費を助成する第1種区域を見直すため、騒音調査を22年度に始めると岩国市などに伝える

■5月

2日 岩国基地の周辺住民が基地の騒音を巡り、損害賠償などを国に求める第2次訴訟を年内に起こすと発表
4日 空母艦載機が6~25日の間に硫黄島(東京都)で陸上空母離着陸訓練(FCLP)をすると中国四国防衛局が岩国市などに伝える
9日 岩国基地に配備されているKC130空中給油機が、23年3月までに2機増えることが判明▽岩国市の市街地上空で岩国基地の所属機が飛行訓練したとして、市民団体「住民投票を力にする会」が市に抗議
18日 空母艦載機が21日ごろから4~6日間ほど硫黄島付近でパイロットの着艦資格取得訓練(CQ)をすると中国四国防衛局が岩国市に伝える
20日 在日米海兵隊第1海兵航空団(沖縄県)が、岩国基地にステルス戦闘機F35B16機を追加配備する計画が完了したと発表▽米海軍の強襲揚陸艦トリポリが初寄港
21日 ベトナム戦争が泥沼化した1970年代、岩国基地近くで4年間だけ営業した反戦喫茶「ほびっと」の常連客の集いが岩国市で開かれる
25日 ミゲルキースが4度目の入港▽空母艦載機のFCLPの終了を中国四国防衛局が岩国市に通知
27日 相次ぐ米艦船の岩国基地への寄港を受け、岩国市の福田良彦市長が「定期的な寄港との見方も否定し難い」として今後2、3年の状況を踏まえ市の見解をまとめる考えを示す
28日 福岡県警が福岡市内での暴行容疑で岩国基地所属の軍人の男=当時(21)=を現行犯逮捕
31日 岸信夫防衛相が、沖縄県の海岸に岩国基地の空母艦載機が投棄した燃料タンクが漂着しているのが見つかったと発表

■6月

1日 米空軍のステルス戦闘機F35A12機が岩国基地に飛来
4日 F35A6機が岩国基地に飛来
5日 岩国基地の機能強化に反対してきた廿日市市の坂本千尋さんが69歳で急逝
8日 広島市中心部の上空で夜、米軍の戦闘機とみられる複数の航空機が通過する様子が市民に目撃される。広島市や広島県に騒音の苦情が9日まで相次ぐ
15日 米空軍のステルス戦闘機F22ラプター10機が岩国基地に飛来
16日 岩国基地の司令官にリチャード・ラスノック大佐が着任▽F22が2機飛来
20日 瀬戸内ネットがF35A、F22計30機の飛来に抗議するよう岩国市に申し入れ
26日 広島中央署が岩国基地所属の海兵隊員の男=当時(31)=を住居侵入の疑いで現行犯逮捕

■7月

1日 6月の岩国市への航空機騒音の苦情件数が前年の3倍だったことが判明
2日 トリポリが2度目の入港
12日 米海軍の無人偵察機トライトン1機が岩国基地に初めて一時配備
22日 防衛省はF35A、F22計30機の約1カ月にわたる訓練が終わったと発表
25日 米軍が東シナ海で6月下旬から約1週間、岩国基地の所属機など大量の戦闘機を飛行させ、一部は中国本土に迫っていたことが判明

■8月

17日 空母ロナルド・レーガンと洋上で展開していた艦載機が岩国基地に一時帰還=写真
18日 岩国基地周辺の盆期間(13~16日)の騒音測定回数が前年の3回を大幅に上回る30回だったことが岩国市のまとめで判明
24日 米軍の高速輸送艦グアムが岩国基地に入港。陸自との訓練「オリエント・シールド」を支援するため車両などを運ぶ
26日 岩国基地周辺の2市2町と県でつくる連絡協議会が、航空機騒音の軽減など21項目を求める要望書を中国四国防衛局に提出

■9月

2日 8月の航空機騒音に対する岩国市への苦情が過去15年間の同月で最多だったことが判明
13日 岩国基地に一時帰還していた艦載機の多くが空母に戻る
14日 米軍が岩国基地でジェット燃料タンクの増強とタンカーが着岸できる埠頭(ふとう)の整備を計画しているとして、住民投票を力にする会が計画に反対するよう岩国市に要請

■10月

5日 無人偵察機トライトンが岩国基地を離れる。岩国市は約3カ月間で5回の飛行を確認=写真
18日 航空自衛隊のE2D早期警戒機2機が岩国基地に到着
23日 岩国市議選が投開票され、新議員28人が決まる
31日 米韓両軍が17年以来5年ぶりとなる大規模な合同訓練「ビジラント・ストーム」を韓国周辺で開始。岩国基地のF35Bなども参加

■11月

4日 陸自に配備するオスプレイ2機が到着
23日 岩国基地などが公開イベント「フレンドシップデー」を23年4月15日に4年ぶりに開くと発表

■12月

9日 空母艦載機が岩国基地に相次いで帰還=写真
13日 岩国錦帯橋空港が開港して10周年を迎える
26日 岩国基地の周辺住民が航空機騒音を巡り、損害賠償などを国に求める第2次訴訟を山口地裁岩国支部に起こす

(2022年12月27日朝刊掲載)

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