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社説・コラム

社説 原発政策の転換 熟議なき決定 許されぬ

 岸田文雄首相が原発政策の転換を決めた。次世代型原発への建て替えや、原発の運転期間の60年超への延長を認める。脱炭素政策を議論する政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を先日開き、GX実現に向けた基本方針に盛り込むことを決定した。

 原発回帰に他ならない。2011年の福島第1原発事故後、「可能な限り原発依存度を低減する」という方針を、政府は堅持し、エネルギー基本計画に記す。しかし今回の方針には再生可能エネルギーとともに原発も「最大限活用」と明記した。

 国民的な議論を経た覚えはなく、国会審議を尽くしてもいない。GX実行会議や経済産業省の審議会の委員は、原発推進の企業や有識者らが大半を占め、多様な視点で話し合ったとは言い難い。政府はエネルギー基本計画の範囲内だとして、このまま閣議決定する考えのようだが、あまりに拙速だ。

 エネルギー政策は、国の将来を左右するほど重要なものだ。特に原子力は、放射線被害を広範囲にもたらした福島の事故によって国民の信頼を失ったままである。100%安全と言い切れる技術ではない中、それでも使い続けるかどうか民意は割れる。基本方針をいったん棚上げし、熟議の場を設けるべきだ。

 政府は政策転換の理由に、気候変動対策とロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を挙げる。だが電力不足や料金の高騰に対する国民の不安感に乗じたと言わざるを得ない。というのも原発の建設は時間がかかり、すぐ効果の出る解決策ではないからだ。

 長い目でみても、原発には難題やリスクがある。たまり続ける使用済み核燃料の再処理は計画が進まず、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分も見通せていない。安全面からも将来にわたって安定的に電力給給できるのか甚だ疑問である。こうした問題点への対応策を新たに示さず、原発の利点ばかりを強調した基本方針が、国民の理解を得られるとは思えない。

 そもそもエネルギー危機を議論するなら、将来の主力電源である再生可能エネルギーをどう増やすかについて、優先して検討すべきだろう。

 気候変動を踏まえた脱炭素対策として、国際組織が重要視するのは省エネと再生可能エネルギーだ。温室効果ガス排出量の削減には、計画から発電開始までの時間が短い再生エネの方が効果が期待できる。

 またコスト面も再生エネが低下傾向にあるのに対し、原発は安全対策などで上昇傾向だ。こうした比較検討は十分なのか。

 福島の教訓を忘れたのか、安全確保のルールを大きく変えている。運転期間の上限は「原則40年、最長60年」だったが、原子力規制委員会の審査期間などの除外を認め、60年超の運転ができるようにするという。

 しかも所管を規制委から、原発推進を担う経産省に移すとし、老朽化した原発の具体的な規制手法は先送りしたままだ。これでは「推進と規制の分離」が形骸化し、安全神話に逆戻りしかねない。

 岸田首相が政策転換を指示したのは参院選後の今年8月だった。国民的な議論をせず、わずか4カ月で出した結論だ。白紙に戻し、議論する必要がある。

(2022年12月29日朝刊掲載)

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