×

連載・特集

ニュースこの一年 広島県2022 <上> 平和 露侵攻 被爆地に影落とす

 ロシアのウクライナ侵攻は、被爆地広島の平和行政に影を落とした。

 2月の侵攻を受け、広島市はロシアの姉妹都市ボルゴグラード市との交流事業を中止。秋に相互に代表団などを現地に送る予定だったが、安全を確保できないと判断した。

 さらに市は8月6日の平和記念式典に、ロシアのプーチン大統領やガルージン駐日大使を招かなかった。ウクライナ侵攻を理由に挙げ、日本の外交姿勢と足並みをそろえた。

 核兵器使用のリスクが高まっている今こそ招くべきだ―。被爆者たちから非難の声が上がる中、松井一実市長は記者会見で「式典に支障を来すのを避けるため」と説明。「被爆の実相に触れてもらうことが重要との認識は変わらない。国際情勢が改善すれば招待する」との考えを示した。

 ただ、ガルージン氏は8月4日、市内での講演会に招かれた際に平和記念公園(中区)を訪問。原爆慰霊碑に献花後、市の対応への見解を問う記者団に「極めて遺憾だ」と語った。国家間の緊張関係が高まった時、市がどんな立ち位置を取るか。国際平和文化都市の在り方が問われた。

 被爆77年に、核兵器廃絶と平和を発信する新たな取り組みもあった。市は3月、原爆で壊滅し、平和記念公園の地下に埋もれていた旧中島地区の痕跡を紹介する「被爆遺構展示館」を公園内に開いた。家族の被爆体験を伝える「家族伝承者」の養成も始めた。

 放射性物質を含む「黒い雨」被害者の救済では国が4月に新基準を導入。広島県と市は11月末までに2711人へ被爆者健康手帳を交付した。(和多正憲)

(2022年12月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ