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社説・コラム

社説 一年の終わりに 安心して暮らせる世に

 先の見えない不安が一向に消えない。どこかもやもやする。多くの人が、そんな大みそかを迎えているのではないか。

 国内外の混迷の中で物価高が押し寄せる。燃料やエネルギーに続き、食料品も軒並み値上がりし、暮らしをいや応なく圧迫する。新型コロナウイルスについては年末年始の帰省や旅行を含めて日常を取り戻しつつある一方で「第8波」で見れば感染拡大がなお続く。

 ことしは激動の年だった。振り返れば、予想だにしない出来事の連続だった。

 何より、世界を震撼(しんかん)させたのがロシアのウクライナ侵攻である。国境を越え、ミサイルや戦車による破壊行為を始めたのは2月。プーチン大統領は核兵器使用をちらつかせ、威嚇を繰り返す。大規模な空爆は暮れが押し迫っても続き、出口が見えない。国連によると、ウクライナの民間犠牲者は6800人を超す。極寒の地で戦火におびえ、停電や断水に苦しんでいる市民がいることにあらためて思いを寄せたい。不安と恐怖は、私たちとは比べものにならない。

 国内でも、信じがたい暴挙が起きた。7月、安倍晋三元首相が銃撃された事件である。参院選の街頭演説中、背後から近づいた男に命を絶たれた。首相退任後も強い影響力を保つ政治家への凶行は、治安の良い日本のイメージを揺るがした。

 事件をきっかけに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による高額寄付など深刻な被害が社会問題化。岸田文雄首相が銃撃の6日後に実施を発表した安倍氏の「国葬」は賛否を巡って国を分断した。旧統一教会との関係や「政治とカネ」を巡る疑惑などで閣僚の更迭ドミノも続き、内閣支持率は落ち込んだ。こうした政治不信を拭い去るのは容易ではないだろう。

 重苦しいニュースが尽きない中でスポーツ界は年を通して国民に勇気をもたらしてくれた。

 2月の北京五輪では、日本勢が冬季最多の18個のメダルを獲得した。米大リーグの大谷翔平選手はベーブ・ルース以来、104年ぶりの2桁勝利、2桁本塁打を達成した。プロ野球では広島東洋カープは失速したが、ヤクルトの村上宗隆選手がレジェンドの王貞治さんを抜く56本塁打を放ち、球団の枠を超えて野球ファンを喜ばせた。

 サッカーではサンフレッチェ広島が悲願のカップ戦タイトルを獲得。続いてワールドカップ日本代表の活躍に日本中が沸いた。元サンフレッチェの森保一監督率いるチームは強豪国を次々と倒し、目標の8強入りこそ逃したが世界を驚かせた。

 「平和だからこそスポーツができる」。森保監督が常々、口にする言葉が、しみじみと実感できる一年でもあった。

 国内では知床半島沖の観光船事故、海外では韓国・ソウルの雑踏事故。信じられない事件や事故で安全、安心がいとも簡単に踏みにじられる。そんな光景の数々を目の当たりにするたびに私たちは悲しみ、そして二度と起こさないためには何ができるかを考えてきた。

 来年こそ誰もが安心して暮らせる年にしたい。平和の尊さをあらためて胸に刻むとともに、苦難に立ち向かう人たちを支えることのできる政治、社会を目指したい。平穏な世界を一日も早く取り戻すためにも。

(2022年12月31日朝刊掲載)

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