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連載・特集

[2023広島サミット] 広島サミットイヤー幕開け 新春対談 平和への道筋 ヒロシマから

 広島のサミットイヤーが幕を開けた。5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、被爆地から核兵器廃絶の流れを強め、世界に「HIROSHIMA」の魅力を発信する好機となる。地元選出の岸田文雄首相、湯崎英彦広島県知事、松井一実広島市長、池田晃治広島商工会議所会頭が官邸に集い、中国新聞社の岡畠鉄也社長が意気込みや期待を聞いた。(境信重、山本庸平)

岸田首相 不透明な時代に一定の方向性

各国首脳 被爆の実相に触れて 松井市長

県民会議で歓迎の機運高める 湯崎知事

池田会頭 食や文化… 魅力発信する好機

進む開催準備 効果に期待感

 岡畠 広島サミットまで5カ月を切った今の心境はいかがでしょうか。

 湯崎 2022年7月に広島サミット県民会議を立ち上げ、さまざまな準備をしている。期待と緊張が半々だ。安全安心で円滑な会議を行うことが重要で、道路をはじめとするインフラや警備態勢の整備を進めている。高校生にカウントダウンボードを作ってもらい各所に置いた。県民の皆さんから写真を募集し、モザイクアートにして歓迎機運を高めていく。

 平和の発信を目的としたフォーラムもやりたい。被爆樹木から作った楽器を使う演奏会などで、力強い平和のメッセージを出す。国際メディアセンターには広島情報センターを設置する。SNS(交流サイト)も含めて広島の魅力を世界に発信する。多くの方に広島ファンになってほしい。

 松井 地球温暖化や気候変動という平時の人類存続の危機が世界中で大きく取り上げられる中、国際平和文化都市を掲げている広島市でサミットが開かれる。この地に集う核保有国を含む主要国の首脳に、核兵器使用のリスクという異常時の人類存続の危機にも注目していただきたい。

 核兵器のない平和な世界を願うヒロシマの心をしっかりと受け止めていただける意義深い機会になる。広島の発展を支える活力あふれる産業や、豊かな自然、多彩でおいしい山海の食材、歴史が紡いだ文化や暮らし。世界の注目が集まるこの機会に、先人が築き上げた広島の魅力をしっかりアピールし、広島の名をさらに世界中に広めたい。

 池田 恒久的な平和の継続なくして経済成長や発展はない。力強い平和へのメッセージを発信していただきたい。

 新型コロナウイルス禍の影響の長期化や、国際情勢の変化、緊迫によってエネルギーや原材料、食料品の価格が非常に高騰している。地域経済を支えている中小企業や家計への影響もかなり大きくなっていく。経済安全保障についても議論が交わされることを経済界としては期待している。

 サミットの直接的な経済効果はもちろん、サミット後のインバウンド(訪日客)や観光客の増大への期待も大きい。感染症の影響の長期化で傷んだ地元経済の立て直しの起爆剤としても大きな期待を寄せている。三重県の伊勢志摩サミットでは5600億円ぐらいの経済効果があったと聞いている。広島サミットではそれを上回るものを期待している。

核廃絶の思い 強く示す場に

 岡畠 核兵器のない世界に向けて広島サミットの位置付けを岸田首相にうかがいます。核保有国の米国、英国、フランスを含む先進7カ国と欧州連合(EU)の首脳が被爆地に初めて集う歴史的な場となります。ロシアの核兵器による威嚇が繰り返され、核戦争の危機感が高まっています。核兵器のない世界の実現をライフワークとする首相は議論をどうリードしますか。

 岸田 ロシアによるウクライナ侵略が行われ、国際的な秩序が問われている。本当に核兵器が使われるかもしれないという危機が叫ばれている。そういった時に被爆地広島でサミットが開かれる。広島、長崎から77年間、戦争で核兵器が使われてはいない。この歴史の重みを、しっかりわれわれは感じ維持していかなければならない。こうした平和への強いメッセージを示す場にしていきたい。

 22年8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも核軍縮、不拡散に向け大切な共同宣言、成果文書が、ロシア1国の反対で採択できなかった。大変残念な思いをした。核兵器のない世界を目指すという国際的な機運が盛り下がっているのではないかという危機感を多くの方が口にする。広島で開かれるサミットを、核兵器のない世界を目指す上で、国際的な機運を再び盛り上げる一つの大きな転換点にしたい。

 岡畠 被爆地広島からG7首脳による被爆者との面会や原爆資料館の訪問を求める声が上がっています。実現すれば米英仏の核保有3カ国のトップが被爆者から直接話を聞き、被爆の実相に触れるという歴史的な意味を持つ場になります。見通しはどうですか。

 岸田 具体的な日程はまだ決まっていない。核兵器のない世界を目指す上で、世界の政治リーダーが被爆の実相に触れ、その思いを胸に、重みを背景に平和へのメッセージを発してもらうことは大変重要なことだ。日本の思い、平和への思い、被爆の実相の重み、これらを念頭に置いて、ぎりぎりまで各国と日程を調整していく。

 岡畠 首相が核兵器廃絶を巡るサミットへの期待を力強く語りました。

 松井 核兵器廃絶が気候変動と同等か、それ以上に人類の存続に関わる重要な課題であると世界中に発信する機会にしてほしい。各国首脳には、原爆資料館の視察や被爆者との対話を通して被爆の実相に直接触れていただきたい。国民の生命や財産を守るためには核兵器をなくす以外に根本的な解決は見いだせないという認識が共有されることを強く期待している。

 湯崎 平和のメッセージの発信は非常に重要で、われわれにとっては責務と感じている。各国首脳には被爆の実相に触れ、核兵器の非人道性について認識を深くしてもらいたい。核兵器廃絶に向けたメッセージの発信も期待している。核兵器保有国には、廃絶に向けて具体的な行動に取り組んでほしい。

地球の課題を議論し未来へ

 岡畠 核兵器以外にも幅広い課題が議題となります。特に力を入れたい議題は何でしょうか。またサミット開催はアジアなどG7以外の国々にもメッセージを発信する機会ともなります。サミットを今後の外交にどう生かしますか。

 岸田 ロシアによるウクライナ侵略によって国際社会が分断されている。そのことで国際機関が機能不全に陥っている。国連安全保障理事会やG20(20カ国・地域)など今まで国際社会の連携や協力を議論してきた場も分断によって、なかなか結果を出すことができていない。

 唯一、G7は共通する価値観を持っている国々が世界の経済や平和について考えていくことから、一つの方向性を力強く示すことができる枠組みだ。G7の存在感はますます高まっている。経済、地域情勢、食料・エネルギー問題、経済安全保障、地球温暖化問題、感染症対策といった地球規模の課題がある中、改めて広島サミットの重みを感じている。不透明な時代だからこそ一定の方向性を示したい。日本はアジアで唯一のG7加盟国。G7とアジアの国々との橋渡しも行わねばならない。

 岡畠 広島の魅力発信も重要になります。

 池田 多彩な魅力を各国の首脳をはじめ関係者に体感してもらい、広島ならではのおもてなしを堪能していただきたい。広島は食材の宝庫。乾杯はぜひとも広島の酒でしていただき、広島の地酒を世界に発信する好機としてほしい。

 サミット開催で世界トップレベルの国際会議が開ける都市だと世界に示せる。国際会議の誘致にも拍車がかかると期待している。

 広島商工会議所の支店長会はサミット応援のミニのぼりを作った。県内の8美術館が協力し、紙屋町地下街シャレオの閉店後のシャッターに特製シートを張り、シャッターアートミュージアムも企画する。

 先駆けてやって来る関係者とも交流を深める。例えば、広島を代表する食の一つであるお好み焼き。お好み焼アカデミーを中心にG7各国にちなんだメニューを開発している。地域の一体感を醸成し、サミットをビジネスチャンスに広島の活性化につなげる。

 松井 平和こそが人々の日常生活を支え、世界の成長と繁栄をもたらすと再確認してもらいたい。重要なのは、今の広島の繁栄を見せること。国内外のメディアを巻き込み、地元の方とわいわいがやがややりながら記事にしてほしい。

 岡畠 サミット開催のレガシー(遺産)をどう生かしますか。

 湯崎 世界中が広島に注目する機会に広島の良さを発信し、多くの方に来ていただく契機とする。それがレガシーの一つだ。

 加えて子どもたちや若者がサミットに参画する機会をつくり、地球温暖化や経済の問題を自分ごととして議論してもらいたい。子どもたちが自発的に広島をもっとよくしていくという行動につながるのではないか。

 岡畠 首相の地元での開催になります。県民、市民の機運を高める取り組みが大事ですが、最後にメッセージをお願いします。

 岸田 世界中が広島に注目する。広島の魅力を世界に発信する大変貴重な機会になると多くの皆さんに感じてほしい。気候変動など地球規模の課題の議論は若い人たちの未来にもつながる。将来に思いを巡らせ、考えてほしい。

 相当数の各国代表団が押しかけ、市民の皆さんには大変ご不便をかける。広島でサミットが開かれる意味に思いを巡らせていただき、ご協力をお願いしたい。ぜひ成功させようという雰囲気を盛り上げたいと強く願っている。

 岡畠 広島での戦後最大規模の国際会議を「オール広島」で迎えて、世界での広島の存在感を高めることを願っています。

きしだ・ふみお
 早稲田大法学部卒。日本長期信用銀行、衆院議員秘書を経て1993年初当選。沖縄北方担当相、外相や自民党政調会長を歴任し2021年10月に首相。当選10回。自民党岸田派(宏池会)会長。東京都出身。65歳。

ゆざき・ひでひこ
 東京大法学部卒。通商産業省(現経済産業省)を経てブロードバンド通信会社を設立し副社長を務めた。2009年から広島県知事。現在4期目。米スタンフォード大で経営学修士取得。広島市佐伯区出身。57歳。

まつい・かずみ
 京都大法学部卒。厚生労働省大臣官房総括審議官(国際担当)などを経て2011年に広島市長。現在3期目。核兵器廃絶や恒久平和を目指す世界約8200都市でつくる平和首長会議会長。広島市東区出身。69歳。

いけだ・こうじ
 慶応大商学部卒。1977年広島銀行入行。執行役員福山営業本部長、常務総合企画部長などを経て2012年に頭取。18年から会長。19年11月に広島商工会議所会頭に就き現在2期目。三原市出身。69歳。

G7サミット
 先進7カ国(G7)の首脳が参加して毎年開かれる国際会議。日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダがメンバー。欧州連合(EU)も加わり経済や外交、安全保障、地球温暖化など国際社会全体の課題を話し合う。議長国は持ち回りで、日本は1979年の東京開催以来、過去6回務めた。2000年は沖縄県、08年は北海道、16年は三重県で開いた。

広島サミット県民会議
 2022年7月発足。行政や経済、交通、医療、平和、教育などの分野から計106団体が参加。湯崎広島県知事が会長、松井広島市長と池田広島商工会議所会頭が副会長を務める。開催支援▽おもてなし▽平和の発信▽広島の魅力発信▽ポストサミットを見据えた若者の参画―の5項目を柱に活動を展開している。

(2023年1月1日朝刊掲載)

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