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[2023広島サミット] 国籍超えて命守って ピアニストのアルゲリッチさん 本紙にメッセージ

露の侵攻 若者犠牲憂う

 広島市で5月にある先進7カ国首脳会議(G7サミット)を前に、市の「ひろしま文化大使」を務める世界屈指のピアニスト、マルタ・アルゲリッチさん(81)が中国新聞のインタビューに答えた。ロシアによるウクライナ侵攻で、戦場に送られた若者が犠牲になっている現状を憂い、各国の首脳たちへ「大切なのは命。力を誇示することではない」と訴えている。(桑島美帆)

 アルゲリッチさんは、米軍による原爆投下とナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を「20世紀で最も悲惨な出来事」に挙げた。「多くの人々が恐ろしい殺され方をした」と心を痛め、軍備拡張競争が続く現実に「われわれはこれまで何を学んできたのか。何も学んではいない」と憤る。

 広島サミットの意義を問うと、「年上の者が居心地の良いオフィスに座って若者を(戦地へ)派遣し、若者たちは憎んでいないのに殺し合っている」とウクライナ侵攻に伴う武力行使を憂慮。第2次世界大戦中に「命のビザ」を発行して多くのユダヤ人を救った外交官杉原千畝に触れ「彼は組織に逆らい、人命を救った。国籍を超えて一人一人の命を守ることを考えるべきだ」と為政者に求めた。

 アルゲリッチさんはアルゼンチン出身。名だたるオーケストラや指揮者、音楽祭に招かれて演奏活動をしている。「Music Against Crime」を掲げ、平和や人を愛する尊さも音楽を通じて伝えてきた。被爆70年の2015年8月には広島交響楽団と協演。その時に広島市を訪れ、19歳で被爆死した女学生、河本明子さんの遺品のピアノを初めて弾き、心を揺さぶられたという。

 15年に広響の「平和音楽大使」、19年にひろしま文化大使へ就任。20年には、広響と被爆ピアノの協奏曲を奏でる予定だったが、新型コロナウイルス禍で断念した。今回のメッセージの中では「ヒロシマで再び広響と協演できることを願っている」と語った。

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 アルゲリッチさんは、音楽事務所KAJIMOTO(東京)の佐藤正治さん(72)を通じ、中国新聞の質問に、録音した音声で回答を寄せた。

(2023年1月1日朝刊掲載)

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