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[広島サミットに寄せて] 惨禍の発信 市民こそ 国際ジャーナリスト モーリー・ロバートソンさん

 モーリー・ロバートソンさん(59)は、多感な少年時代を広島市で過ごした。放射線影響研究所(放影研、南区)にも勤めた米国人医師を父に持つ。長年、国際情勢をウオッチ。先進7カ国首脳会議(G7サミット)で広島に注目が集まる中、「よりリアルな被爆の実態を世界に届ける力は、市民にこそある」と語る。(聞き手は編集委員・田中美千子)

 サミットに集う首脳がどれだけヒロシマを発信してくれるか。正直、あまり期待していない。彼らは国内事情を優先する。選挙で勝ち、体制を維持しないといけないから。どの首脳も「被爆の実態を持ち帰る」とは言うだろうが、単なる「ごあいさつ」だ。例えば欧州各国では、ウクライナ情勢の影響で電気代が高騰し、生活が苦しくなっている。被爆地の話をしても「いいから先に電気代を下げろ」と言われてしまう。

 私はむしろ市民に期待する。ネットを通じ、情報がグローバルに伝わりやすい時代になった。爆風、熱線、放射線に無残な死を強いられると初めて知り、驚く人が実際にいる。「いまさら?」と思うでしょう。でも核を甘くみている人は世界的にすごく多い。被害を限定的に抑える核兵器などないことを、プーチン氏だって分かっていない。

  ≪放影研の前身、原爆傷害調査委員会(ABCC)への勤務を志願した父に連れられ、5歳で来日。修道中2年で帰国したが、留学生という形で修道高でも1年ほど過ごした。≫

 すっかり広島の人間になった。「はだしのゲン」を読んだのもリアルタイム。だから米国での大学時代、核を巡る周りの認識に反発した。「通常兵器のひどい版でしょ?」くらいにしか思ってないのだから。

 米国でも1980年代、核被害を警告するテレビ番組はあった。作ったのは平和志向の人たち。それでも「地獄絵図」のない、甘っちょろい内容だった。原爆に限って言えば米国は加害国だけど、学校もそうは教えない。罪を背負うことになるから、リアリズムを避けたんだと思う。

 ≪2016年5月、オバマ元米大統領が被爆地に立つ姿に感動したという。≫

 米国として原爆と向き合う姿勢を初めてみせた。ついに扉を開けてくれたな、と涙が出た。その扉は閉まってはいない。広島市民がサミットを機に、より生々しい被爆の実態を発信し、世界にシェアの輪を広げてほしい。今なら動画やアニメを駆使し、分かりやすく伝えることだってできる。

 そうすれば「これはまずい。ロシアの暴走を止めないと」と思う人が増える。団結の輪も広がるかもしれない。電気代が少々高くてもロシアの資源は買うまい、セーターをもう1枚着て我慢しようと。兵士を含むロシアの人びとにも、うまく伝わるといいですね。

Morley Robertson
 1963年、米ニューヨーク州生まれ。父は米国人、母は日本人。五日市南小、修道中・高などで学び、81年に東京大とハーバード大に現役合格した。88年、ハーバード大卒。コメンテーターやミュージシャンとしても活躍中。

(2023年1月4日朝刊掲載)

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