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社説・コラム

社説 首相の年頭会見 国際協調へ外交力磨け

 岸田文雄首相はきのうの年頭会見で、ことし重点的に取り組む課題を三つ挙げた。経済再生と少子化対策という「待ったなし」の国政課題に、外交を加えたのは、外相を長く務めた岸田氏ならでは、と言えようか。

 ことし、日本外交が正念場を迎えることは間違いない。今月から2年間、国連安全保障理事会の非常任理事国になった。5月には、岸田氏の選挙地盤である広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。

 世界は今なお、ロシアによる昨年のウクライナ侵攻を引きずっている。国際秩序を武力で破壊しようとするロシアを厳しく非難する欧米と、権威主義的な国々との分断は広がる一方だ。

 そんな中、世界の平和と繁栄をどれだけ主導できるか。その方法はあるか…。民主主義や法の支配を重視する日本の外交力が、問われることになる。

 まずは、G7を結束させなければならない。力による一方的な現状変更は許されず、ましてや核兵器をちらつかせた威嚇は言語道断だ―。そんな訴えを改めて広島サミットで国際社会に強く打ち出す必要がある。

 岸田氏は「被爆地から核兵器のない世界の実現に向けた力強いメッセージを発する」と力を込めた。当然だろう。

 核兵器が使われるとの危機感がロシアによって、かつてなく高まっている。中国は核兵器を含む軍備増強を加速させ、台湾に軍事的圧力をかけている。北朝鮮もミサイル開発をやめず、周辺国に懸念を与えている。

 それだけに、安保理の常任理事国でもある主要な核保有国の米英仏が、そろって核廃絶に前向きな姿勢を見せれば、大きな意味を持つ。ロシアだけではなく、中国や北朝鮮などへのけん制にもなるはずだ。

 そんな期待のある広島サミットでリーダーシップが求められるのが岸田氏だ。9日からドイツを除くG7の国を訪れると会見で表明した。サミットの下準備を進めるのが狙いだろう。

 米国のバイデン大統領との首脳会談は13日にワシントンで行われる。年末に実施した安保関連3文書の改定を踏まえ、「日米同盟の一層の強化を内外に示す」考えだ。「さらに踏み込んだ連携を確認したい」とも会見で述べた。台湾有事を念頭にしているなら見過ごせない。

 日本は戦後、平和主義という憲法の原則を大切にして専守防衛に徹してきた。だからこそ、平和や核兵器廃絶を訴える言葉に説得力があった。

 それを根底から覆しかねないのが安保関連3文書の改定だ。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有にまで踏み込んだのに、国民はおろか、国会での議論もないまま突き進んできた。安保理をはじめ国際社会での存在感が薄れないか、疑問だ。

 米国との協調は必要だろう。しかし一辺倒過ぎたのでは、中国やロシアの警戒感を高め、かえって状況を悪化させないだろうか。米国の軍事戦略に組み込まれ、外交の独自性を失ってしまわないか。不安に思う国民がいるのも無理はあるまい。

 力に頼らず、対話を通して対立や分断を乗り越える方策を探る。国際協調を深める外交力を磨き上げることこそが今、求められている。外交姿勢を変えるべきはロシアや中国であって、日本ではないはずだ。

(2023年1月5日朝刊掲載)

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