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社説・コラム

天風録 『百の声』

 真庭市の農家がビニールハウスで作るトマトの葉を見ながら言う。汁を吸う害虫コナジラミが悩ましい。農薬を使わず、地域にいる「土着天敵」のタバコカスミカメを使って退治した。虫には虫をと、すかさず字幕が出る▲思わずうなった。上映中のドキュメンタリー映画「百姓の百の声」の一場面である。あまたの知恵や技が語られた。減反政策に逆らい、自ら精米して売るコメ農家も。逆境の中、ぬかの発酵を使う土づくりに行き着く▲JR広島駅南口では今、工事用の囲いに農家たちの写真が飾られている。「広島を食べよう」という企画で、自慢の食材を見せる。こんな一文に心がざわつく。なぜ、ここまで日本の食料自給率が低くなったのだろう、と▲コロナ禍で物流が滞り、ウクライナ侵攻は物価高に拍車をかける。食を輸入に頼る実態が突き付けられた。肥料もほぼ海外に依存する。安さや効率、利益ばかり追ってきた末のことだ。足元を見ようとしてこなかった▲冒頭の土着天敵は、発見した高知の農家に聞いたという。難題を乗り越えた知恵や技は、共有の財産だからと独り占めにはしない。分かち合うことで、より豊かになる。そんな百姓に教えられる。

(2023年1月6日朝刊掲載)

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