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核使用「限定と宣言を」 岸田外相 容認と取れる発言

 岸田文雄外相(広島1区)は20日、長崎市で核軍縮・不拡散をテーマに講演し、核兵器の使用を「(保有国は)少なくとも個別的・集団的自衛権に基づく極限の状況に限定するよう宣言すべきだ」と述べた。「核軍縮の現実的なステップ」との位置付けだが、限定的な使用を容認するかのような発言に、会場から疑問や不満の声が上がった。

 講演は、外相と公募した市民が日本外交について意見を交わす会合の一環。岸田氏は核軍縮・不拡散に向けた日本の新たな構想を説明した。限定使用を認めるかのような発言は、核兵器の役割を低減させる具体策の一つとして紹介された。

 岸田氏は「核保有国には核兵器使用の可能性を広くとっている国もある」と指摘。核保有国が極限の状況下だけでの使用を宣言し、それに沿った配備態勢になれば現実的な核軍縮につながるとの見解を示した。

 講演後の意見交換で、長崎県被爆2世教職員の会の平野伸人会長(67)は「被爆地には核兵器は絶対使われてはならないという思いがある。使う余地があるというのは納得できない」と批判。別の参加者も「極限の状況では使用を認めるというような発言。核戦争につながるのではないか」とただした。

 岸田氏は「使用を認めるという話ではない。核兵器のない世界という大きな目標に前進するための一つの過程、議論として申し上げた」と説明した。

 核軍縮・不拡散に向けた日本の新たな構想は、核兵器の数や役割、保有する動機をそれぞれ低減させる具体策などを提案している。会合は、外務省が2002年から全国各地で開いている。長崎市での開催は初めてで、約180人が参加した。(藤村潤平)

【解説】米「抑止力」への依存示す 問われる姿勢・覚悟

 核兵器の使用を「極限の状況」では容認するかのような岸田文雄外相の発言は、米国の核抑止力への依存を強調する安倍政権の姿勢を示している。たとえ核兵器廃絶に向けた「現実論」であろうと、被爆地は決して受け入れることはできない。

 発言の基になった核軍縮・不拡散に向けた日本の新たな構想は、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対抗する狙いもある。外務省担当者は、日本の安全保障の確保に万全を期すため「核兵器の使用は排除されない」と明言する。

 岸田氏の発言は、核兵器の非人道性と不使用に関する国際的な共同声明への賛同を見送った昨春の政府対応とつながる。米国に配慮して「いかなる状況下でも核兵器を使用するべきではない」との文言に難色を示した。昨年10月に出された同趣旨の声明には賛同したが、見送りを判断した考え方は変わっていないことをさらけ出した。

 広島市では4月、核非保有12カ国でつくる「軍縮・不拡散イニシアチブ」(NPDI)外相会合が開かれる。岸田氏は今回の構想で外相会合の議論を主導したい構えだ。このままでは、極限状況での核兵器の使用容認を含む構想が被爆地で議論のテーブルに乗ることになりかねない。

 被爆地の願いには、当然ながら核兵器廃絶とともに不使用も込められている。唯一の戦争被爆国としての姿勢と覚悟が問われている。(藤村潤平)

(2014年1月21日朝刊掲載)

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