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社説・コラム

天風録 『心に残る「平和」の音』

 2022年に最も「心に残った音」は―。補聴器メーカーの調べでは、サッカーW杯のカタール大会で日本代表が勝った時の大歓声だった。周りが寝静まる時間帯に観戦する非日常感も、劇的勝利を色付けた▲小差の2位は、ロシアのウクライナ侵攻における爆発音だという。こちらは「心にこびりついた音」だろう。ただし日本では電源を切れば、もう聞かずに済む。ひもじさや凍るような寒さの見舞う現地では、大地や大気を震わせるごう音がやまない▲何より気掛かりなのは、ウクライナの子どもたちの消息である。遊び、歌い、笑い声を上げる―。日常の音を奪われた今、屋外のかすかな気配に息をひそめ、爆音に耳をふさいでいるのだろうか▲ユニセフによると、人道支援を待っている子どもたちは720万人にも及ぶ。「ママ、部屋のあそこに爆弾があるの。危ないからね」。家で戦争ごっこをする4歳の娘を見て、隣国への避難を決めた母親もいるという▲砲弾や戦乱の音は聞き分けやすい。「平和」の音があるとすれば何だろう。かの地にいる子どもの心に残るのは、音だけではあるまい。支援を通じ、世界中の大人が寄せる声や思いの丈も、きっと届く。

(2023年1月10日朝刊掲載)

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