×

社説・コラム

天風録 『古都の願い』

 京都を訪ねるなら冬がいいと当地の友人から聞いた。観光客が少なく、自分のペースで回れるからだそうだ。厳しい寒さと引き換えの楽しみは名物の湯豆腐か、はっとする名所の雪化粧か▲冬の古都へいざなうキャンペーンのポスターに、竹原市出身の陶芸家、今井政之さんが起用されている。特別公開中の東寺五重塔のきらびやかな内部を背に赤の着物姿。92歳になる美術工芸の重鎮が、京の観光の顔に▲〈平和を願うエネルギー ここに〉のコピーが今井さんらしい。学徒動員先の竹原の工場にいたあの日、ピカッと光った西の空と、1週間後に父と入った広島の悲惨な光景が忘れられぬという。平和を祈りながら独自の技を高めた▲創作拠点の京都はロシアの侵略を受けるウクライナの首都キーウと姉妹都市の縁を結ぶ。核の脅しを続けるプーチン大統領を許せないだろう。インフラへの攻撃で電力不足に陥り、厳冬下の市民の暮らしが脅かされる▲プーチン氏がロシア正教のクリスマスに合わせ、軍に命じた36時間の一方的停戦が終わった。この間も砲弾は飛び交い、実態が伴わないどころか不信の増幅を招いた。いつになれば戦火はやむのか。古都の願いよ、届け。

(2023年1月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ