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[広島サミットに寄せて] 「憎悪の連鎖」断つ鍵に 日本総合研究所主席研究員 藻谷浩介さん

 資源を地元で循環させて持続可能な地域づくりを目指す「里山資本主義」などを提唱してきた日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介さん(58)=周南市出身。現場を歩き、事実に基づき考える姿勢を信条とする。5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)を機に「実際に広島を訪れて被爆と復興の実像に触れ、被害と復讐(ふくしゅう)の連鎖を止めようとする人を世界に増やそう」と提言する。(聞き手は山本洋子)

 その知名度に比して広島を訪れる人は多くない。原爆を通常兵器の延長で捉える人は多い。いずれ「広島への原爆投下はフェイク」とネットで発信する人が出てきても、私は驚かない。

 えたいの知れない言説に対抗するために、広島を訪れ、人道として許されない原爆被害、復興した街の今を知る人を増やしたい。被爆地は核被害の実像を知るからこそ、いかなる理由でも繰り返してはならないと核兵器廃絶を訴え、被害と復讐が連なっていく「憎悪の連鎖」を断ち切った。世界が学ぶべき視点だ。

≪国際情勢が激変する中、核抑止論を批判し、憲法9条の重要性を説く。≫
 ウクライナに核があればロシアは攻撃しなかった、という核抑止の言説は理屈の後付けであり、感情論だ。隣の友だちが強そうな仮面ライダーベルトを持っているから僕も欲しい、という幼い心理がある。

 核兵器の保有は膨大な資金と厳密な管理が必要だ。世界に保有国が増えれば、管理に失敗してテロリストに渡る可能性が格段に高まる。彼らは本当に核兵器を使い、報復による憎悪の連鎖が始まってしまう。狂気の世界だ。経済大国で被爆国の日本が、核を持たない、先制攻撃をしないという姿勢を貫くことで、世界を安定化させるべきだ。

≪日本の防衛力強化の動きに対しても、米国や中国、香港、台湾からの経常収支黒字に依存している経済構造をまず直視せよ、と指摘する。≫
 例えば台湾有事が起これば日本の経済は止まり、食料も燃料も買えなくなる。いずれも全く自給できておらず、国防では対抗できない。有事が起きた時点で負けだ。第2次世界大戦の敗戦国であり、アジアで唯一G7に加わる日本は、有事が起きないように全力を尽くさなければならない。

≪広島サミットは、日本の外交手腕が問われる正念場とみる。≫
 広島は世界有数の美しい街だ。街のにぎわい、山や海、川の豊かさ。訪れて原爆の悲惨さを知れば、美しく復興した姿に心を打たれる。民主主義の下で憎悪の連鎖を止めた被爆国の政府として、核抑止には限界があるという認識を広げるリーダーシップを広島サミットで発揮してほしい。

もたに・こうすけ
 1964年、周南市生まれ。東京大法学部卒。米コロンビア大経営大学院修了。88年、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行し、地域振興部参事役などを経て2012年から現職。地域振興や観光振興、人口問題などを中心に地域エコノミストとして活動。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

(2023年1月7日朝刊掲載)

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