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連載・特集

[広島サミットに寄せて] 核廃絶へ新テーゼを 作家・高樹のぶ子さん

 文化功労者で、日本芸術院会員に名を連ねる防府市出身の作家、高樹のぶ子さん(76)は、幼少期からヒロシマを身近に感じ、核兵器廃絶を強く願ってきた。5月に広島市で初めて開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)に参加する首脳たちへ「人類の一員として、核抑止の発想自体を変えてほしい」と求める。(聞き手は桑島美帆)

 身内に原爆で死んだ親子がいる。戦後、ずっと歯茎から血を流していた親戚の姿も見ている。私自身、母のおなかにいた時、原爆が投下された直後の広島駅を列車で通過した。私の子どもや孫のことを考えれば、核廃絶は地球規模で取り組むべきだ。被爆地でサミットを開催する意味は何か。座敷を貸し、単なる政治ショーに終わらせてはならない。

  ≪9歳だった1955年には、祖母と母親に連れられて開館したばかりの原爆資料館(中区)を訪れた。子ども心に抱いた恐怖心や怒りを、2004年に出版した自身がモデルの小説「マイマイ新子」に反映している。≫
 小説にも書いたが、原爆慰霊碑に刻まれている「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」という文言を読み、誰が誰に対して誓っているのだろうと疑問に感じた。原爆を落とした米国が日本に対して誓っているのか、人類が人類に対して誓っているのか。

 いずれにしろ、核兵器保有国は依然として、核兵器の開発や保有数を競い合い、国家の安全保障の指標にしようとしている。この発想自体を変えなければならない。

  ≪22年12月、選者を務める中国短編文学賞募集に寄せたエッセーで、ロシアによるウクライナ侵攻に触れ「目の前に暮らしている人々目がけて、ミサイルを撃ち込む人間の神経とは、何だろう。自分の行為がもたらす結果を、想像しないのだろうか」とつづった。≫
 結局、戦争で庶民が犠牲になっている。国が成り立てば、国民は半分死んでも仕方がない、という考えなのだろうか。自国を優先し、兵器の見本市のようにも感じる。人間は愚かだ。

 国連も核拡散防止条約(NPT)も核兵器禁止条約も、政治的駆け引きばかりで残念ながら機能しておらず、絶望的な気持ちになる。笑われるかもしれないが、核ミサイルを発射したらUターンさせる「ブーメラン装置」のような技術を開発するしか、核廃絶への道はないのではないか、とすら思うようになった。核を使えば自分の国が滅びると認識する必要がある。

 地球全体が一つの生命体だ。G7に参加する首脳たちは、ヒロシマの史実を悲しいと嘆いて、政治的に利用するのではなく、廃絶へ向けて本気で取り組み、今までとは違う新しいテーゼを打ち出す出発点にしてほしい。

    ◇

 広島のサミットイヤーの幕開けに、中国地方ゆかりの著名人たちに期待する成果や展望を語ってもらった。

たかぎ・のぶこ
 1946年、防府市生まれ。東京女子大短期大学部卒。84年「光抱く友よ」で芥川賞、99年「透光の樹」で谷崎潤一郎賞、2010年「トモスイ」で川端康成文学賞。01~19年、芥川賞選考委員。17年、日本芸術院会員。18年、文化功労者に選ばれた。20年、「小説伊勢物語 業平」で泉鏡花文学賞。

(2023年1月3日朝刊掲載)

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