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社説・コラム

天風録 『クジラと自衛艦』

 大阪の淀川河口に現れたのには驚かされた。体長8メートルほどのマッコウクジラ。普段は深場にいるのに弱って群れから離れたようだ。まだ浅瀬でじっとしているが、元気に沖に戻ってほしい▲こちらも「なぜこんなところで」と漁師が首をひねっている。海上自衛隊の護衛艦いなづま。山口県周防大島沖のセンガイ瀬で座礁し、自力航行ができなくなった。油漏れを起こして現場海域にとどまる姿が痛々しい▲灯標から西に数百メートルも浅瀬が広がる、大島南側では知られた好漁場。水深50メートルを超す深場から海面近くまで岩礁がかけ上がっている。漁船でも注意が必要で、ましてや、自衛艦のような大きな船が行き交える海域ではない▲白昼で視界は良く、複雑な潮流もない。海図やレーダーのある自衛艦がなぜこの海域に入り込んだのか。いなづまは4代目。前任3艦はいずれも事故を起こしているという。4度目はさすがに仏様でも怒るに違いない▲4年前の尾道市沖の掃海艇衝突では艇長が居眠りしていた。隊員も居眠りを見過ごし、連絡や相談を欠いたことが事故を招いた。惰眠がむさぼれるほど平穏かもしれないが、瀬戸内を行き交う自衛艦を不信の目で見たくはない。

(2023年1月12日朝刊掲載)

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