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社説・コラム

社説 海自護衛艦座礁 徹底調査し情報開示を

 海上自衛隊の艦船うんぬんというより、海のプロとしてありえない事故ではなかろうか。

 呉基地を母港とする護衛艦いなづま(4550トン)がおととい、山口県周防大島町の沖家室島の南約2・5キロの沖合を航行中に座礁した。スクリューが故障して自力で航行できない状態に陥った上に、船尾の右軸スクリュー付近が岩などに接触してタービン油が流出した。

 損傷の状況はまだはっきりしないが、軽くはなさそうだ。事故から2日目も動かせず、海上で立ち往生が続いた。海自の運用上も由々しき事態だろう。

 最大の問題点はなぜ、危ない浅瀬を通ったのかだ。

 いなづまは前日まで尾道市因島のドックで定期点検を受けていた。試験運転で乗組員とドック関係者の計190人を乗せ、伊予灘を南西に進んだ後に、現場付近で折り返して呉に戻る予定だったという。

 試験運転は通常、最大速度を出して操作性を確認する。事故当時はエンジン関連の試験中だった。しかし現場は岩礁が多い「センガイ瀬」と呼ばれる海域であり、漁業者から見れば巨大船が通ることなど考えにくい場所のようだ。しかも付近には浅瀬を示す灯標が設置され、晴れていて目視は十分可能だった。そもそもチャート(海図)を見ていれば通るべき海域でないことはすぐ分かったはずだ。

 ルートの選択ミスなのか、目指すルートから外れたのか。チャートや見張り、ソナーによる確認を手順通りしていたのか。艦内の意思疎通に問題はなかったのか。通常と違って民間人が乗っていたことは、事故に影響していないのか。さまざまな疑問が湧いてくる。

 乗員にけがはなかったが、仮に岩礁と激しく衝突するなどしていれば、もっと大量の油漏れが起きかねなかった。付近は好漁場であり、北側には国内最大規模のニホンアワサンゴの群生地も広がる。松野博一官房長官が会見で「大きな危険を伴うもので重く受け止めている」との認識を示した。当然だろう。

 海自は事の深刻さを自覚しなければならない。いなづまの安全確保と同時に、早急に原因をはっきりさせるべきだ。

 広島海上保安部も業務上過失往来危険の疑いもあるとみて艦長らから事情を聴いているが、おそらく原因究明の主導権は事故調査委員会を設置するという海自が持つことになろう。ここは情報を包み隠さず、すぐに開示すべきだ。それが思わぬ事故に不安を募らせている人たちに対する責任ではなかろうか。

 海自の艦船の事故は後を絶たない。2008年にイージス艦あたごが千葉沖で漁船と衝突して親子が死亡した事故は、当直士官の見張りや他の隊員との連携に問題があったと、防衛省の報告書は結論付けた。

 原因や背景はそれぞれ違うが瀬戸内海でも事故が続く。14年に大竹市の阿多田島沖で輸送艦おおすみと釣り船が衝突し、釣り船の2人が死亡した。19年には尾道市の高根島沖で掃海艇のとじまと貨物船が衝突した。

 防衛力の大幅強化を巡る議論の中で、自衛隊の装備や訓練などの在り方もさまざまに問い直されるだろう。国民の安全を守るどころか不安を与えるようなミスは自ら信頼を揺るがすことを肝に銘じてもらいたい。

(2023年1月12日朝刊掲載)

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