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社説・コラム

社説 日米首脳会談 友好 強調するだけでは

 視線の先にあるのは国民なのか、それとも米国なのか。

 岸田文雄首相がバイデン米大統領と米ホワイトハウスで会談した。覇権主義的な動きを強める中国を念頭に日米同盟の深化で一致した。さらに5月に広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)成功に向けた結束を確認し、ウクライナ情勢や食料・エネルギー問題など直面する課題も協議した。

 両首脳が足並みをそろえることは重要だ。友好関係が深まることも歓迎する。今年は日本がサミット議長国であり、日米で国際社会の主導的役割を果たしたい首相の思いも理解できる。

 だが、安全保障政策を大きく転換する敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を手土産にするような外交手法はいただけない。国内での議論もそこそこに、強行した防衛費の大幅増額などをバイデン氏に笑顔で説明する姿は米国への追従と言えよう。

 共通の脅威である中国にどう向き合うか。ロシアのウクライナ侵攻で欧州に目を配らなくてはならない米国にとって、台湾海峡問題で日本に一定の役割を担わせたいのだろう。日本の防衛費増額の動きはまさに米国の意に沿うものに違いない。

 ただ日本は、先の戦争への後悔と反省から戦後一貫して平和国家の道を歩んできた。にもかかわらず政府は昨年末の臨時国会閉会後に、国内総生産(GDP)1%以内を目安としてきた防衛費の倍増方針を決定。安保関連3文書を改定した。

 国会での議論は始まってもいないのに、国策の大転換につながる重大な決定をしたことは看過できない。国会よりも先に、バイデン氏に説明する首相の念頭には、国民より米国が浮かんでいるとしか思えない。

 沖縄の米海兵隊改編が、その象徴例として挙げられよう。米国は離島有事に即応する「海兵沿岸連隊」創設を表明、自衛隊も南西諸島へミサイル配備を進めている。

 ところが、計画は地元沖縄の頭越しで進む。今も米軍専用施設の7割が押しつけられている沖縄に、さらに負担を課す手法は不誠実そのものだ。

 今回の会談で米国の期待するメニューをそろえた首相は、バイデン氏から「称賛」された。日米関係は良好には違いない。外交で成果を強調し、低迷する政権の支持率を向上させたい思惑も透けて見える。

 首脳会談で首相は、広島サミットで「核兵器の惨禍を二度と起こさないとの誓いを広島から世界へ発信したい」と述べている。被爆地選出の首相なら「核なき世界」への強い決意を核超大国の首脳にも明確に示すべきだった。核兵器を使わないだけではなく、保有も認めないことこそが目指す道のはずだ。

 米政権の進める半導体の対中輸出規制も気掛かりだ。中国の外交姿勢は批判すべき点も多いが、産業のコメである半導体を日米が規制すれば影響は中国だけにとどまらない。両国が協力して中国を追い込むような動きは危うい。自分たちが批判する「世界の分断」を自らの手で進めることになってしまう。

 米国との関係を重視するにしても、中国や韓国をはじめ、全世界を見渡した冷静な外交を尽くすべきだ。握手を交わし、友好関係を強調するだけでは、国民の理解は得られない。

(2023年1月15日朝刊掲載)

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