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連載・特集

緑地帯 本田美和子 写された広島城⑦

 戦後撮影された広島城の写真の中で、私が気に入っているのが、昭和29(1954)年ごろ大天守台の上で撮影された近隣小学校児童の集合写真である。天守が再建された今となっては絶対に撮影することができないものだ。

 ところで、現在は天守の南側にある小天守台に設けられた階段を上がってから天守の近くまで進み、チケット売り場前に設けられた階段を上って天守内に入ることができる構造になっている。実は小天守台と大天守台には数メートルの高低差があるのだ。小天守台に設けられた階段は戦前の写真でも確認できるので、そこまでは階段で上がれたとして、天守が再建されてなかった時には、そこから大天守台に上るにはどう考えても石垣をよじ登るしか方法がない。写真には小柄な女の子も写っているし、最初はなにか梯子(はしご)のようなものでも置かれていたのかと思ったが、同時期の他の写真を見ても、そのようなものは置かれてはいないようだ。あれこれ考えていると、同じ小学校の元児童さんから「天守の再建前は石垣を登って遊んでたよ」と思い出話を聞かせていただいた。他にも石垣を登る子供の写真が残されており、どうやら大天守台周辺は子供たちの楽しい遊び場と化していたようだ。きっと男の子はもちろん、女の子たちにとっても石垣を登るのはごく普通のことだったのだろう。

 しかし大天守台の石垣は上部が反っていて登りにくくなっており、特に西側と北側から登るのは大変危険である。石垣を保護する観点からも、今は絶対によじ登らないようにお願いしたい。 (広島城学芸員=広島市)

(2023年1月14日朝刊掲載)

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