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[インサイド] 拙速感拭えぬまま 「移転ありき」と反発 走り出す中央図書館再整備

 広島市立中央図書館の再整備計画が年明け早々に大きく動いた。市は市中央公園(中区)からJR広島駅前のエールエールA館(南区)への移転を決定済みとし、本年度内に事業着手する考えを12日に表明した。一方、市民団体は市民の理解が不十分だとして反発を強めている。振り返れば、移転方針の公表から市議会が関連予算を可決するまで4カ月だった。拙速感を拭えぬまま、大型事業が走り出す。(余村泰樹)

 13日午前、中央図書館の移転に反対する市民8団体の約20人が市役所で担当課に移転撤回を求める要望書を出し、記者会見を開いた。広島文学資料保全の会の土屋時子代表(74)は「関係者や市民の十分な理解を得られていない」と明言。直後に市中心部の街頭へ繰り出し、約80人で移転反対をアピールした。

予算が議会通過

 市民団体にとり、市の移転着手表明は唐突だった。12日の記者会見で、松井一実市長が「関係者に丁寧に説明し、理解してもらう対応ができた」と説明。本年度内にA館への移転に向けた設計に取りかかる考えを示した。移転先の決定時期を問われると「元々決定はなされていた」といなした。

 市側の考え方はこうだ。A館への移転構想を初めて打ち出したのは2021年11月。22年1月にまとめた22年度当初予算案に設計などの関連経費を計上し、3月に市議会で可決され、移転は認められた―。市民の代表である市議会を予算が通過したことで、「市のA館への移転方針も変わらない。あとは予算を執行するために理解を得る手続きを進めてきた」(市幹部)。

 市民団体側の認識は異なる。この予算案を可決した際に市議会は全会一致の決議で「関係者に丁寧に説明し、理解していただいた上で移転先を決定すること」などと明記しており、整備先の議論は途上とみる。

 20年3月の時点で、市が中央公園内での整備を検討する基本方針を示していたにもかかわらず、広島駅周辺が候補地に加わり、A館に絞り込まれた経緯への市民団体の不信も根強い。

 市は広島駅周辺が20年9月に、国の税制優遇などを受けられる「特定都市再生緊急整備地域」に指定されたのを受け、図書館という公共施設を駅前に移すことで、新たなにぎわいを呼び込みたい考えだ。ただ、市民団体側には、A館を運営する、市出資の広島駅南口開発(南区)の救済策との見方がくすぶる。

「恥はかかせん」

 今後の焦点は2月に開会予定の市議会定例会だ。近く着手する移転の設計事務は、市議会決議への対応で大幅に遅れ、23年度に予算を繰り越さざるを得ない状況だ。この手続きには市議会の議決が必要となる。

 22年3月の予算案可決時は移転方針への賛否がぎりぎりまで見通せなかった経緯がある。ただ、その後の市の対応について、批判的な受け止めは広がっていない。自民党系会派のベテラン議員は言う。「(4月に市長選を控える)市長に恥をかかせるようなことはせん。これ以上はもめず、粛々と通すじゃろ」

(2023年1月14日朝刊掲載)

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