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影潜めた「核廃絶」発信 首相の欧米5ヵ国歴訪 資料館訪問・被爆者との面会打診なく

サミットで機運 道筋見えず

 岸田文雄首相の欧米5カ国歴訪はどんな成果を残したのか。地元の広島市で5月に開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)の協力要請が第一だった。一方で首相は、各国首脳との会談では日本の防衛力強化をアピールした。戦闘機の共同開発や米国製巡航ミサイルの導入など、史上初の被爆地サミットを前に、きなくさい言葉があふれた。(中川雅晴)

 歴訪を締めくくる米国での記者会見。「広島、長崎に原爆が投下されてから77年間、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは人類の生存のために決して許されない」。広島サミットで核兵器の不使用継続を世界に訴える考えを示しながらも、核廃絶には踏み込まなかった。

軍事連携打ち出す

 「核兵器のない世界を目指す国際的機運を再び盛り上げる大きな転換点にしたい」。首相は日本を出る前、広島サミットの意義をこう説いた。しかし、核保有国の米国、英国、フランスを含め、各国首脳との会談で核廃絶に向けた具体的な議論はなかった。目立ったのは軍事的な連携強化を次々と打ち出す姿だった。

 フランスのマクロン大統領とは自衛隊とフランス軍の共同訓練の推進を確認した。英国のスナク首相とは、自衛隊と英軍部隊の共同訓練を推進する円滑化協定に署名。日本と英国、イタリアによる次期戦闘機の共同開発も確かめた。中国や北朝鮮の脅威に備え、結びつきを強めた格好だ。

 とりわけ「腹合わせ以上に重要」と意気込んで臨んだのが、バイデン米大統領との会談だった。防衛費の大幅増と反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を説明しバイデン氏に称賛された。日米同盟の抑止力を強める重要性を確認。米国製の巡航ミサイル「トマホーク」を購入することも伝えた。

 共同声明では、米国の「核の傘」に依存する日本政府の安保政策を事実上肯定する文言も盛り込まれた。「バイデン大統領は、核を含むあらゆる能力を用いた、日米安全保障条約第5条の下での、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメント(関与)を表明した」と明記。「核なき世界」の実現を目指す首相の理念とはほど遠い。

「軍拡競争を誘発」

 政府関係者によると、今回の外遊で、首相が各国首脳による原爆資料館の訪問や被爆者との面会を持ちかけることはなかったという。こうした姿勢に被爆者からは批判の声が上がる。

 日本被団協の木戸季市事務局長は「軍事一体化は周辺国との軍拡競争を誘発するだけだ。緊張緩和を働き掛ける平和外交の姿勢が見えない」と指摘する。

 軍事衝突を避けるには、対話による外交努力も求められる。首相はワシントンでの会見で、広島サミット前の日中首脳会談の有無を問われたが「現時点で具体的に決まっているものはない」と述べるにとどめた。

 広島サミットをG7の軍事的結束をアピールする場に終わらせず、「核なき世界」への転換点にできるか―。開幕まで約4カ月。道筋はまだ見えない。

(2023年1月17日朝刊掲載)

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