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社説・コラム

『潮流』 日米同盟の足元

■岩国総局長 岩崎秀史

 「泣き寝入りしない。早く損害を賠償してほしい」。被害者の男性の訴えを聞き、今の時代の話なのかと首をひねるしかなかった。

 岩国市で昨年12月、車を盗まれた上、事故を起こされ壊される事件が起きた。容疑者は米軍岩国基地の海兵隊員の男。逮捕されてもおかしくない事件だが山口県警は任意で取り調べている。日米地位協定が障壁となっているのだろう。発生から1カ月が過ぎても何もできない歯がゆさが被害者の訴えから伝わってきた。

 事件発覚時、容疑者は基地に戻っていた。地位協定では公務中でない米兵の犯罪は身柄が米側にあれば、日本側が起訴するまで引き渡さなくてよい。基地に逃げ込まれれば強制捜査はとたんに難しくなる。

 地位協定を巡る問題は繰り返されてきた。2010年に岩国市内の男性が軍属女性の車にはねられて死亡した。米側は公務中を理由に裁判権が米軍にあると主張し、日本側は不起訴にした。女性が基地から受けた処分は通勤時を除く4カ月の運転制限。あまりに軽いと批判が上がった。

 昨年1月には新型コロナウイルスの感染が岩国基地と市内で急拡大した。軍人たちは米国から基地へ直接乗り入れ、検疫の「基地任せ」が問題視された。

 地位協定は占領期の米軍の「特権」をほぼ維持し、不平等と改定を求める声が根強い。運用は改善されてきても60年余り一字一句変わっていない。「基地との共存」を掲げる福田良彦市長も腹に据えかねたのだろう。事件を受け、日米両政府に改定を求める考えを示した。共存は対等な関係が大前提であるはずだ。

 訪米した岸田文雄首相はバイデン米大統領と会談。日本の防衛力強化を伝え、同盟関係の深化を確認したという。だが市民の安心安全より国防が優先されていいはずがない。まず足元を直視しなければならない。

(2023年1月17日朝刊掲載)

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