×

連載・特集

[こちら編集局です あなたの声から] 平和記念公園近く キョウチクトウが腰の高さに

剪定はG7テロ対策

樹木医「花数戻るには2~3年」

 「平和記念公園(広島市中区)の近くでキョウチクトウがばっさり切られている。いったいなぜ?」。西区の大学教員女性(53)から編集局に声が寄せられた。原爆投下後の焦土にいち早く咲き、市の花としても親しまれている木に何が―。背景を探ると、5月に市内である先進7カ国首脳会議(G7サミット)が影響していた。(向井千夏)

 「路面電車から見える白と濃いピンクの花が大好きだった。ショックです」と女性はつづる。刈り込まれたのは、平和記念公園の西側の本川沿いで南北約600メートルにわたって植わるキョウチクトウ。どの木も腰の高さまで剪定(せんてい)され、視界を遮る枝葉がなくなったため川面や同公園を見渡せた。

 市公園整備課を訪ねた。「サミットを前に、伸びた枝や葉の陰に不審者が隠れたり、爆発物を仕掛けたりするのを防ぐテロ対策です」。長尾昌洋課長の説明は明解だった。昨年9月、市と県警が参加国首脳の移動ルートになり得る道路を点検し、美観対策も兼ねて沿道や平和記念公園周辺での剪定を決めたという。

 対象はクスノキなどの高木約400本やキョウチクトウ約100株、計1万9千平方メートルの中低木で、事業費8700万円を確保。主会場のグランドプリンスホテル広島(南区)周辺では、昨年11月下旬から剪定が進んでいる。

 本川沿いのキョウチクトウ約100株は、昨年12月中旬に剪定された。10月末までが適期だが、発注準備などで冬になったという。高さ約3メートルまで茂っていたのを、歩道からの高さが1・3~1・5メートルになるよう切りそろえた。

 「短くし過ぎでは、との声も聞きます」。記者の問いに、長尾課長は「伸び放題となり、うっそうとしていた」「予定はなかったが、サミットで予算を確保できたこの機会に剪定する」などと説明。「成長が早く枯れにくい。強い木なんです」とも強調した。

 一方で、専門家からは異なる意見も聞かれた。西区の樹木医の堀口力さん(77)は「キョウチクトウは暖かい地域で育つ樹木。寒くなる時期の剪定は木の成長を弱め、ダメージを与えかねない」と指摘する。「テロ対策は分かるが、ここまで短くする必要があったのだろうか」。元の木の高さ、花の数に戻るには2~3年かかると見立てる。

 2016年に伊勢志摩サミットのあった三重県志摩市も「テロ対策で街路樹の伐採や除草をした」と振り返る。やはり、やむを得ない面もあるのだろう。

 ただ、キョウチクトウは広島市民にとって特別な木だ。「赤い花を見ると原爆の夏が来たなという感覚がある」。本川沿いをよく通るという佐伯区の派遣職員青木孝さん(68)はそう実感を込め、「これだけ短くされると、ことしは例年のようには咲かないのでは」と心配そうに話した。

(2023年1月17日朝刊掲載)

年別アーカイブ