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社説・コラム

天風録 『造語の名人・拝借の名人』

 「造語の名人」と政治学者の五百旗頭(いおきべ)真氏は評している。福田赳夫元首相のことだ。敗戦の荒廃を乗り越え、迎えた高度成長期。江戸時代の好況になぞらえ、「昭和元禄」と呼んだ▲「狂乱物価」「全方位平和外交」といろいろな言葉を残したが、1977年には心境をそのまま吐露した。日航機を乗っ取った過激派グループの日本赤軍から仲間の釈放を求められる。苦渋の末、これをのむ。テロに屈したと批判されながら、「人の命は地球より重い」と訴えた▲対して、昨今の政治家の弁はどうだろう。国会答弁や記者会見で棒読みを繰り返し、あきれられた閣僚は少なくない。今の首相はさながら「拝借の名人」といえよう▲地元広島の先達に倣った令和版の「所得倍増計画」はどうなったのだろうか。デジタル化の推進にも、「田園都市国家構想」という受け売りの言葉を継いだ▲新味を欠くといえば、ことしの年頭会見で掲げたキャッチフレーズもしかりだ。「異次元の少子化対策」に挑戦すると意気込んだ。確かに重要な政策課題ながら、「異次元」といえば日銀の金融緩和策と同じ冠だ。財源を示せなければ大風呂敷に終わる。借りた言葉の重みをお忘れなく。

(2023年1月19日朝刊掲載)

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