×

社説・コラム

天風録 『「強く、お互いに優しく」』

 〈日本の新聞には、がっかり〉。ニュージーランドに住む友人からの穏やかならぬ返信である。「もはや余力がない」と語ったアーダン首相の突然の辞意をどう思うか、SNSで尋ねると彼女はたまたま日本に帰省中だった▲アーダン氏は6年前に37歳で首相に就いた。翌年出産し、現役首相として世界で初めて産休を取得。子育てをしながら働く女性指導者として注目を集めた。最近は物価高騰などで支持率が低迷。記事だけ読めば「政権投げ出し」の見方もできようか▲友人の受け止めは違った。やれることは全部やった末、自分と家族を守るために退いた―。会見での「私も人間です」の言葉に、飾らぬアーダン氏らしさがあるのかもしれぬ▲南部のモスクで4年前に起きた銃乱射事件では、イスラム教徒に寄り添う姿勢をいち早く示し、差別や偏見を断固許さなかった。核兵器廃絶にも「私たちがやるしかない」と力を入れた▲コロナ対策でロックダウンを断行した際には自宅から普段着姿で動画配信を続け、「強く、お互いに優しく」と毎回締めくくった。国民との対話を何より重んじたリーダーシップは語り継がれるだろう。それに比べ…とは言わないでおく。

(2023年1月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ