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社説・コラム

『潮流』 へそ曲がりの「砦」

■論説委員 石丸賢

 創刊101年の雑誌「週刊朝日」が5月末で休刊する。かつて100万部以上の発行部数を誇った総合週刊誌の古顔も、先月は7万部前後にまで落ち込んでいたという。

 時の人や世相を風刺画や似顔絵で切る山藤章二さんのページは楽しみで、後ろからめくったものだ。今思えば、山藤さんがおととし降板したのも災いしたのかもしれない。

 親しんできた雑誌が姿を消すと、記憶の色まで何か、そこだけ急に色あせてしまう気がする。とりわけ青春時代から共にしてきた誌面の場合、その感が深い。

 例えば、哲学者の鶴見俊輔さんへの私淑からなじんだ月刊誌「思想の科学」。季刊誌「いま、人間として」は、わずか3年ほどの刊行時期が学生時代と重なる。CMがジャーナリズムの対象になるんだと目を開かれた、天野祐吉さん創刊の月刊誌「広告批評」…。今、どれもない。

 就職先に夢見るほど、愛読したのがリトルマガジンの草分け、月刊誌の「話の特集」だった。創刊から30年の1995年に力尽きた。

 創刊200号の歩みをかいつまんだ臨時増刊号が手元にある。目次に常連組の名前が並ぶ。芸能史研究家でもあった俳優小沢昭一さん、無党派の参院議員だった中山千夏さん、ナンセンス漫画を連載した長新太さん、ラジオパーソナリティー永六輔さん…。そんな面々が集う「砦(とりで)」のような誌面は「大人のへそ曲がりって、かっこいいな」と思わせた。

 編集長だった矢崎泰久さんの近著「人生は喜劇だ」によると、小沢さんも永さんも文化勲章を断ったらしい。敗戦後、ひと晩で民主主義者に転じる、ぶざまな大人を目の当たりにした世代らしい反権威だろう。

 反権力、反戦にこだわった元新聞記者の矢崎さんも昨年暮れ、この世を旅立った。筆を曲げず、口をつぐまぬ姿勢が、かっこよかった。

(2023年1月21日朝刊掲載)

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