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社説・コラム

天風録 『「包摂」もどき』

 その2文字が、首相の国会演説に現れたのは13年前、旧民主党政権の時だった。年間の自殺者が3万人を超え、孤立という難題が持ち上がっていた。誰も置き去りにしない―。そんな社会を示すキーワードが「包摂」である▲意味合いが社会に行き渡る前に自民、公明両党の連立政権が取って代わる。安倍晋三、菅義偉両氏の政権下では自己責任が問われ、正反対の「排除」が進む。国の内外に「敵」を据え、求心力を高める手法も災いした▲そこに、後継の岸田文雄首相が昨年秋の所信表明演説で「包摂」に息を吹き込んだ。きのう施政方針演説でも例の2文字が聞こえてきた。「おっ」と身を乗り出して間もなく、ずっこけた▲「包摂的な経済社会づくり」となぜか経済の2文字を足し、おまけに地方創生まで柱として紛れ込ませている。元々は、貧困対策と重なる言葉でなかったか。原稿を淡々と読み上げていく姿が、何やら空恐ろしかった▲またの名を「反撃能力」という敵基地攻撃能力は、専守防衛の礎を揺るがす。原発回帰にしても、急転換である。「聞いてないよ」といった津々浦々の声が聞こえないのだろうか。こんな調子では、国民が置き去りになる。

(2023年1月24日朝刊掲載)

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