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社説・コラム

社説 ウクライナ支援 露の横暴 食い止めねば

 ロシアの侵攻を受けたウクライナを支援するため、ドイツが主力戦車レオパルト2の供与を決めた。ポーランドやフィンランドといった、他国が所有する分の提供も認める、という。

 一歩踏み込んだ軍事支援だと言えよう。強力な攻撃型兵器の提供で地上戦が激化して、双方の犠牲者が増えることは避けられまい。ロシアを追い込めば、プーチン大統領がちらつかす核兵器のボタンを押す恐れが高まってしまう。

 ただ、ウクライナ侵攻は明らかな国際法違反だ。決して許されない。住民の暴行や虐殺まで疑われている。国際社会は結束して、ロシアの横暴を一日も早く止めなければならない。

 ドイツは当初、戦車供与に消極的だった。日本と同様、先の大戦で敗れた。戦争を引き起こした反省から軍国主義とは決別し、武器輸出を厳しく制限してきた。数々のナチスの悪行に負い目も感じているはずだ。

 しかも、ショルツ首相の所属する社会民主党は長年、平和主義を掲げてきた。それを支持する国民も多く、戦争への深入りにつながる戦車供与を巡る賛否は国論を二分していた。

 そんなドイツが遅まきながら決断したのは、外堀が相次いで埋められたからだろう。

 火の粉が降りかかることのないよう、ドイツだけが突出するのは避けたかったようだ。しかし英国がまず自国製の戦車供与を決めた。戦火がエスカレートするリスクを恐れて、ドイツ同様に及び腰だった米国も米軍の主力戦車供与を決断し、歩調を合わせる格好となった。

 近隣国からは、レオパルト2を供与するよう迫られていた。ロシアと国境を接するポーランドや、バルト3国などだ。各国の亀裂が深まれば、ロシアの思うつぼかもしれない。ドイツが孤立することにもなりかねない。

 ロシアに毅然(きぜん)として対峙(たいじ)し、ウクライナを支援するには、何より欧米の結束が欠かせない。そう自覚して、ドイツは苦渋の決断をしたのだろう。

 これに対し、ロシアは影響はないなどと強気の姿勢を見せている。ただ、これまで供与しないようドイツをけん制した対応からは、戦車の能力を警戒しているのは間違いなかろう。

 日本も問われている。先進7カ国首脳会議(G7サミット)の広島開催を5月に控え、ウクライナ支援や対ロシアへの結束を主導する役割が期待される。

 とはいえ、日本ができることには限界がある。軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)のメンバーであるドイツと、立場は違うからだ。

 日本は、防衛装備移転三原則の運用指針で戦車など殺傷能力のある武器は供与できない。

 ウクライナ支援の柱としては、ロシアが埋めた地雷や、がれきの除去を考えているようだ。外務省は今週、ウクライナ非常事態庁の幹部と復興を見据えた支援のあり方を話し合った。地雷除去の実績が豊富なカンボジア政府との連携も始めている。長期的視点でウクライナの復興を支援する準備を整えておきたい。ただ、具体化は戦争が終わってからだろう。

 そのためにも、たとえどれほど困難でも、戦火を止める糸口を見いだす努力を忘れてはならない。それこそ、被爆国日本が果たすべき使命ではないか。

(2023年1月27日朝刊掲載)

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