×

連載・特集

[広島サミットに寄せて] G7結束強める好機 元駐米大使 佐々江賢一郎さん

 元駐米大使の佐々江賢一郎さん(71)=倉敷市出身=は2016年のオバマ米大統領による広島訪問が、日米関係に大きく寄与したと振り返る。ことし5月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)では被爆地ヒロシマに再び世界の注目が集まる。「核兵器の惨禍に触れることで、世界の秩序を守らなければとG7が結束を強める契機になる」と期待する。(聞き手は山本庸平)

 ロシアによるウクライナ侵略にみられるように世界の分断が著しい。核兵器使用の可能性も取り沙汰されている。サミットに向けた非常に大きな課題だ。世界の秩序をどう守るのか。法の支配に基づく自由でオープンな世界をどう実現するのか。議長国として岸田文雄首相には力強いメッセージを打ち出してほしい。

  ≪岸田首相は核軍縮・不拡散をサミットで議題とする方針だが、一方で反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や防衛費の増額を盛り込んだ安全保障関連3文書を昨年12月に改定した。≫
 世界は軍備拡張の流れにある。日本の防衛力の強化も、中国や北朝鮮といった周辺国の脅威が高まる中でやむを得ない。あくまでも戦争にならないための現実的な措置だ。米国や欧州諸国と連帯して抑止に取り組むことが不可欠で、失敗すれば望まぬ武力紛争が起こり得る。

 拡大抑止への依存と、核兵器の廃絶を目指すというのは「矛盾だ」とよく言われるが、長期的な視点に立てば決してそうではない。核兵器の数や役割を低減するため対話を重ねることが現実的な道筋だ。

  ≪被爆地広島から、G7首脳による原爆資料館の訪問や被爆者との面会を求める声が上がる。≫
 被爆の惨禍に直接触れてもらうことは重要だ。サミット行事の中でスケジュールの調整がなされ、実現されることを望みたい。核兵器を持つ国も「核の傘」に依存する国もいるが、ヒロシマの持つ意味は十分認識されている。

 核の悲劇を起こさないために一層の努力を促す機会として、広島は最もふさわしい場所である。サミットに合わせて広島を訪れる主要途上国や多くの国際機関の関係者にも、こうした機会を持ってもらうべきだ。

  ≪16年5月、現職米大統領として初めてオバマ氏が広島を訪問した。駐米大使として、米側との事前の調整に携わった。≫
 広島を訪れるのは日本側の強い要望だからという、「一方通行」の形ではいけない。オバマ氏の方から「ぜひ行きたい」となるのが望ましい。事前の調整で私が最も苦心した点だ。核の惨禍を直接知ることで平和への原動力にすると、米側に能動的に捉えてもらうことが重要だった。

 結果、核の悲惨さを訴えるオバマ氏の言葉が広島から世界に届けられた。同じ年には安倍晋三元首相の真珠湾(ハワイ)訪問もあり、戦後の日米間の和解のプロセスとしても重要な意味を持つ出来事だった。広島サミットも世界の平和のため歴史的な意義を持つ場となることを望んでいる。

ささえ・けんいちろう
 1951年、倉敷市生まれ。広島大付属高、東京大法学部を卒業後、74年に外務省入り。アジア大洋州局長時代には、北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議の日本首席代表として交渉に当たった。外務事務次官、駐米大使などを歴任。2018年から日本国際問題研究所理事長を務める。

(2023年1月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ