×

社説・コラム

『今を読む』 フリーランス記者 宮崎園子(みやざきそのこ) 図書館問題に見る広島市政

結論ありき 異論に耳貸さず

 広島市中央図書館を、市出資の第三セクターが運営するJR広島駅前の商業ビル「エールエールA館」に移転する―。1年半ほど前に市が打ち出した計画を、図書館利用者として、そして広島在住のフリーランス記者として注視してきた。

 昨年3月、市議会はA館への移転費も含めた2022年度の一般会計予算案を賛成多数で可決しつつ、「十分な議論が尽くされていない」として、全会一致で付帯決議案を可決した。A館移転、現在地建て替え、中央公園内移転建て替えの3案を詳細に比較検討できる資料を作成し、議会・利用者・有識者などの関係者に丁寧に説明し、理解を得た上で移転先を決めるとの内容だ。議会との「約束」だと言えよう。果たして市はそれを誠実に履行しただろうか。

 昨年12月の市議会総務委員会で、市は「再整備候補地はA館」との結論を示した。ここに幾つか問題点がある。

 まずは、公園内移転建て替え案を「除外」して3案から2案に絞って検討したと市は説明したが、その経過が適切に示されていない点だ。

 案の比較検討業務を委託した調査会社との協議の中で、公園内移転建て替え案を市からの指示で除外したと、市は説明した。筆者は、調査委託の仕様書や協議記録などを市側に公開請求していたが、それらは不開示、または黒塗りだらけの部分開示だった。つまり、市側がどのような指示・説明によって3案を2案に変更したか分からない。付帯決議が求めたのは「3案」比較検討ではなかったか。

 さらに問題なのは、1千万円を超す税金を使って委託した調査会社の報告書を市議に開示することなく「A館移転」の結論を導いたことだ。付帯決議は、丁寧に説明、理解を得た上での移転先決定を求めたはずだ。議員や、開示請求していた筆者に報告書が部分開示されたのは委員会後の12月末だった。

 また、市が「有識者」と位置付ける図書館協議会や社会教育委員会議への対応も問題が多い。いずれも年末、立て続けに会合日程が設定されたが、「A館移転」の結論を出した後だった。市が「関係者に丁寧に説明し、理解を得た」と説明した今月20日の総務委員会の時点で、それら二つの審議会の会議録は市議や市民に公開すらされていない。つまり、有識者たちがどのような意見を述べたかをつまびらかに開示していないのだ。筆者は一部傍聴したが、さまざまな懸念が示されていた。

 これらの対応を踏まえれば、市民の幅広い意見に耳を傾けることなく、結論ありきで計画が進められてきたとの批判は免れない。

 振り返れば、そんな市の姿勢を端的に示す出来事が昨年12月14日の総務委員会の数日前に起きていた。

 市身体障害者福祉団体連合会の理事を務める障害者団体の代表者の男性を取材していたときだ。「連合会としてA館への移転を求める要望書を市議会に提出したい。同意できない場合は事務局へ連絡を」。そんな連絡が12月5日に事務局から理事・幹事宛てに出されたという。事務局長は元市職員で、回答締め切りは翌6日夕方。「障害者のためとかバリアフリーだとか言うが、こんなやり方はないですよね」。男性は怒っていた。

 付帯決議が可決された昨年3月の議会閉会直前、松井一実市長が、A館移転を願う障害者団体と面会したとの報道があったことを思い出した。

 移転問題を所管する生涯学習課によると、要望当日に翌日の面会が決定したという。一方、以前から移転反対を表明し、市長への面会を求めてきた市民団体は、日程調整が困難などの理由で面会が実現していなかった。「なぜ私たちは面会させてもらえないのか」というのは至極当然の疑問だ。

 「職員は、市民全体の奉仕者であり、市民の一部に対してのみの奉仕者ではない」と市職員倫理規則は規定している。また、市情報公開条例は「市民に説明する責務が全うされる」ことを目的としている。中央図書館問題は、あまたある市政課題の一つに過ぎないが、市政遂行の在りように大きな疑問符を投げかけるものだったように思えてならない。

 77年府中市生まれ。慶応大卒。金融機関勤務を経て02年朝日新聞入社。神戸、大阪、広島で勤務後、21年退社。22年「『個』のひろしま 被爆者 岡田恵美子の生涯」で平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞受賞。

(2023年1月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ