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連載・特集

『生きて』 ゼネラル興産会長 山下泉さん(1936年~) <9> 共同ビル

戦後の区画整理に挑む

  ≪広島市中区の本通り商店街で共同ビルのプロジェクトを進める≫
 本通りが戦後の土地区画整理事業によって各区画の間口が狭く細長い地形になったことを考慮して、土地所有者や商店主たちに共同ビルを提案した。単独で建て替えるのではなく、2、3区画をまとめて床面積を広げることで、人気の衣料品ブランドや物販店を誘致できるからだ。区画をまとめる手続きが複雑だが、土地家屋調査士と協力して、境界線が分からない土地を整理することから始めた。1983年に完成したメガネの田中本店と久乃せ履物舗が入るビルや、91年のHM本通会館などを手がけた。

 細長い土地のため、多くの商店が3階建て程度になっている。しかし、定められた容積率などから、ビルは通常6、7階の高さにできる。共同ビルにすることで間口が広がり、エレベーターを付けられる。1階には人気の高い物販店、上層階にはクリニックや事務所を誘致する。その好例が、2007年8月に本通り中央部の交差点角に完成した商業ビル「本通ヒルズ」だ。

 陶器販売の渡部陶苑と文具店の多山文具がそれぞれ所有していたビルを地下1階、地上7階の商業ビルに建て替えた。東京まで交渉に出かけて1、2階に有名スポーツブランドを誘致した。交差点の横にエスカレーターを付け、3階に渡部陶苑と多山文具が出店。4階以上はクリニック、地下1階に飲食店が入った。

  ≪東京の有名ブランドからも出店の相談が来るようになる≫
 西日本有数の商店街として、他のビルにも有名ブランドに出店してもらうため、東京へ足しげく交渉に通った。そのうち、ブランド側から出店の相談が来るようになった。商業ビルに出店する企業が集まる「テナント会議」と呼ばれる会があり、そこで広島に出店した企業が良いうわさを流してくれたようだった。

 テナントとの関係を深めるうち、海外の高級ブランドはアーケードを好まないと知った。スイスの高級時計ブランドに、本通りと平和大通りを結ぶ並木通りへの出店を提案。ビルを改装し、内装はすべてブランド側が設計した。開業時には役員が来日し、大いに満足された。

(2023年2月3日朝刊掲載)

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