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連載・特集

[広島サミットに寄せて] 核廃絶 前進あるのみ 元衆院議長 河野洋平さん

 元衆院議長の河野洋平さん(86)は、今の先進7カ国(G7)にロシアを加えたG8議長が被爆地広島に集った2008年の下院議長会議(議長サミット)を主催した。戦禍を肌で知る身として、信条とする核兵器廃絶への熱意は衰えない。5月に広島市であるG7サミットでは、各国首脳に被爆者の訴えを届けた上で「核なき世界」への具体的な成果を出すよう求める。(聞き手は口元惇矢)

 議長サミットで忘れられないことがある。各国の議長が原爆資料館元館長の高橋昭博さん(11年に80歳で死去)から被爆体験を聞いた時、みんな衝撃を受け、絶句した。原爆の知識が乏しかった面々の態度が、がらりと変わった。(核超大国の)ロシアの議長でさえ「核兵器はあるべきではない」と主張した。

 広島サミットでも原爆の恐ろしさや非人道性を各国のリーダーにしっかり知ってもらうことが大事だ。ありのままの事実を見て被爆者の話を聞く。その上で議論に臨んでほしい。

  ≪外相時代の1994年、核兵器廃絶決議案を日本として初めて国連に提案。ライフワークは「核なき世界」と公言し、映画「ヒロシマ原爆の記録」のフィルムを旧ソ連や米国に持ち込んで市民や科学者に上映したこともある。≫
 毎年決議案を出すだけではなく、その結果どうなったのかを振り返り、次のステップに進む必要がある。ことしの広島サミットもそうだ。核兵器廃絶へ少しでも前進してほしい。決議や宣言を出すだけでは駄目だ。かつては米国とロシアによる核軍縮協議が進んでいた時代もある。(核弾頭数削減など)目に見える成果を出すべきだ。

 ≪岸田文雄首相はことしの年頭会見で、核軍縮・不拡散を広島サミットのテーマの一つとする考えを表明した。一方で、同盟国である米国の「核の傘」に依存し、核兵器の製造や保有などを一切禁じる核兵器禁止条約に背を向け続ける。≫
 広島開催は岸田さんの信念が実ったのだろう。ロシアが核兵器の使用をちらつかせる状況下でこそ「核なき世界」を主張することが重要だ。

 日本は単なる核兵器の非保有国ではなく、唯一の戦争被爆国。原爆であれだけ多くの犠牲を出した。保有国と非保有国の橋渡しを自負する岸田さんは、立場を鮮明にせず双方の仲立ちをしたいのだろう。宰相は理想を具体化できる立場にある。核兵器廃絶の理想に向かって進むべきだ。

  ≪首相は昨年末に安全保障関連3文書を改定し、防衛費の大幅増にかじを切った。財源として増税の必要性を繰り返し訴える。≫
 日本が世界に誇れるものは日本国憲法だ。先の大戦で負けて反省し「今までの(軍国主義の)やり方は駄目だ」と戦いを放棄した。強大な軍備を持たず、各国から尊敬されてきたのに、世界有数の軍事力を誇っても支持は集まらないだろう。政治家の最大の仕事は戦争をしないことだ。

こうの・ようへい
 1937年、神奈川県平塚市生まれ。早稲田大政治経済学部卒。67年衆院選に自民党から立ち、初当選。76年に新自由クラブを結党し代表に就く。86年解党し自民党に復帰。官房長官や党総裁、副総理兼外相などを歴任した。2003~09年に衆院議長。超党派の国際軍縮促進議員連盟会長も務めた。

(2023年2月3日朝刊掲載)

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