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社説・コラム

社説 新たな平和研究組織 ヒロシマ発信に弾みを

 広島市と広島大、市立大、広島平和文化センターが、ヒロシマ平和研究教育機構(仮称)の開設で連携協定を結んだ。

 中区の広島大本部跡地にある被爆建物の旧理学部1号館を拠点に、平和に関する研究・教育を共同で実施する。加えて、被爆の実態を学術的に分析して世界に発信するのが狙いだ。

 ウクライナ危機に便乗し、核抑止論まで声高に主張されている。そんな状況だからこそ、核なき世界の実現を掲げる被爆地の研究機関が連携を深めることは意義深い。施設整備をはじめ積み残した課題はあるが、知の拠点として、ヒロシマ発信を強めなければならない。

 広島大平和センターと市立大広島平和研究所を軸にした連携組織は2018年に構想が示されていた。具体化に向けた協議に時間がかかり、大幅に遅れてしまったという。役割分担をはじめ細部の詰めはこれからだが、ようやくスタートラインまでこぎ着けたと言えよう。

 市は23年度中に、施設整備や研究内容について盛り込んだ基本計画をまとめ、各団体を束ねる「機構」を設立する方針だ。

 新たな組織が手掛ける共同研究のテーマとして、被爆体験や核兵器廃絶はもちろん、ウクライナとロシアの戦争などが挙げられている。当然だろう。

 二つの大学がスクラムを組むには、組織文化の違いを乗り越える必要がある。互いに補完し合い、相乗効果や化学反応を生じさせることで、研究を飛躍させるための弾みにしたい。

 放射線影響研究所の広島大霞キャンパスへの移転の際にも参考になろう。広島大原爆放射線医科学研究所(原医研)などとの学術的協力を深めるノウハウが見いだせるのではないか。

 いずれは地域内の他大学にも参画を呼びかけ、オール広島での研究・教育体制を整えていくという。市民はもちろん、行政職員や各種議員に対しても、原爆被害や復興、世界の核状況に関する知識の底上げができるよう教育機能の拡充も必要だ。

 まるごとではないが、被爆建物の理学部1号館を保存・耐震化して活用を図る。世界に例のない平和研究施設になるのは間違いあるまい。原医研の持つ資料の常設展示も検討している。国内外から広島を訪れた人たちが平和記念公園に続いて足を運び、原爆資料館とは別の角度から被害の実態を学ぶ施設として被爆地でのヒロシマ発信が重層的になることを期待したい。

 課題もある。例えば旧理学部1号館の保存・改修費だ。市は概算で18億5千万円かかると14年の調査で見込んでいた。しかし劣化はさらに進み、改修費が膨らみそうだ。税金をつぎ込むからには、市民の理解が欠かせない。平和研究や発信に市民を巻き込むことも求められる。

 市は、世界有数の平和研究機関を目指すという。壮大な目標のように思えるが、被爆者が見聞きした78年前の体験を、戦後味わった苦難も含めて人類を自滅から救う記憶として受け継ぎ、世界に発信していく。そうした研究ができるのは広島と長崎しかない。

 被爆者の高齢化が進み、証言が直接聞けなくなる時代が少しずつだが近づいている。市は、これまでの遅れを取り戻せるよう、新たな平和研究組織づくりを加速させなければならない。

(2023年2月6日朝刊掲載)

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