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IAEA次期事務局長 天野氏任命 外務省出身の識者に聞く

■記者 金崎由美、吉原圭介

 IAEAの新事務局長に天野之弥ウィーン国際機関代表部大使が選ばれた。「核の番人」のトップに被爆国日本の代表が就任する意味について、ともに外務省出身の識者2人に聞いた。

途上国の不満に配慮を

元駐イラン大使 孫崎享氏(65)

 被爆国として、核不拡散の分野で活躍できるとは非常に光栄なことだ。どの国の国民よりも、この任に就く意義がある。国際的に評価される仕事をすることを期待している。

 ただ現実には数々の難題が待ちかまえている。北朝鮮は国際社会に背を向けてまで核開発を進め、イランの核問題は深刻さを増している。

 特にイランに対する米国内の論調が、軍事行動に傾斜しつつあることは懸念材料だ。現実となれば「IAEAでは核問題は解決できない」と、組織の存在意義が問われる。

 今回の事務局長選では「日本は米国寄り」という途上国の不満が表出し、すんなりと決まらなかった。その不満への配慮をしなければ、天野氏自身や日本が途上国の非難を受けることになる。この面でも難しいかじ取りが予想される。

米におもねらず中立に

広島市立大広島平和研究所長 浅井基文氏(68)

 政治的に中立で客観的な判断が求められる機関のトップに、米国の影響を強く受けている日本から立候補したこと自体が問題だと考える。その意味で積極評価はできない。あえて期待できる点を挙げれば、事務局長在任中は、日本政府が核武装論をはじめとする核開発についての言動にブレーキをかけざるを得なくなることだろう。

 4年前、(外務省軍縮不拡散・科学部長だった)天野氏と同じシンポジウムに参加した際、天野氏は「究極的核廃絶」を口にした。被爆国でありながら即時廃絶を言えない政府の主張そのものだ。

 政府は米国の「核の傘」のもと、これまで真剣に核兵器廃絶に取り組んだことはなく、広島の声とは程遠い。天野氏は、しがらみから抜け出し、大国におもねることなく、公正中立にリーダーシップを発揮してほしい。

(2009年7月4日朝刊掲載)

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