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社説・コラム

『潮流』 水木さんの恩返し

■松江支局長 清水大慈

 新鮮な子供の時の、自然やみるものきくもののオドロキ―。それが大切だと境港市出身の漫画家水木しげるさんは自伝的作品「のんのんばあとオレ」の後書きに記した。8年前に亡くなった水木さんの足跡を伝える施設はどう生まれ変わるだろう。子どもが驚き、大人も童心に返って驚く―。こんな方向性で進化すると期待している。

 2003年に同市が設けた水木しげる記念館が建て替えられる。3月9日から休館し、現地で来春、再オープンする予定だ。

 記念館は、妖怪像177体が並ぶ「水木しげるロード」とともに多くの人々を境港に呼び込んでいる。数々の妖怪話を語り聞かせた「のんのんばあ」と出会わせ、創作のベースを育んだ故郷に、水木さんが恩返しをしているようだ。

 新しい記念館は水木さんの作品世界を「次の100年に守り伝える」がコンセプト。面積が広がり、指定管理者となる事業体の一員として水木プロダクション(東京)が運営に参画する。「作品を最もよく知る水木プロが関わることは大きい。展示の充実と満足度向上が期待できる」。市観光振興課で記念館を担当する古徳健雄主査は説明する。

 事業体は、指定管理料を市からもらわず、入館料などの収入で自立運営する。その上、建て替え費用約9億円から国の補助金などを除いた額を、市に20年かけて支払うという。その計画を聞いた時、水木さんの恩返しはまだまだ続くんだなあ、と思った。

 新記念館には水木さんの思想の発信にも期待したい。「なまけ者になりなさい」「努力は人を裏切ると心得よ」…。戦場で生死の境をさまよった体験などを背景に、生死や幸福について思索し、多くの名言(迷言)を残した。大人が童心に返りつつ、その思想に触れ、わが身を少し振り返る場にもなり得ると思う。

(2023年2月7日朝刊掲載)

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