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社説・コラム

社説 トルコ大地震 国際社会 支援に結束を

 世界有数の地震国トルコが、またしても大きな揺れに襲われた。同国南部を震源地とするマグニチュード(M)7・8の地震の被害は隣接するシリアの側にも及び、死者は合わせて5千人を超えた。

 同じような地震国で暮らす日本人も無関心ではいられない。ビルが一瞬にして崩落するニュース映像は衝撃的だった。歴史上、度重なる大地震が起きてきたにもかかわらず建築物の備えは十分でなかったようだ。

 最大都市イスタンブールでは公共施設の耐震補強が進んだというが、国全体ともなると心もとない。ましてシリアにどこまで地震への備えがあったか。ただ今後の対策を語る前に、まずは被災地の支援態勢を一刻も早く整えることが求められる。

 国連のグテレス事務総長は、緊急支援を総会の場で表明すると同時に、各国に援助を呼びかけた。米国をはじめ世界各国は救援隊の派遣や物資の提供などに次々と着手している。

 目を引くのは戦闘状態にあるロシア、ウクライナ双方が支援を表明したことだ。ロシアについてはプーチン大統領がトルコのエルドアン大統領、シリアのアサド大統領とそれぞれ関係が深いことも背景にあろう。

 昨年のウクライナ侵攻開始以来、国際社会は協調が揺らぎ、分断が深刻だ。巨大災害における人道支援で曲がりなりにも結束できるとすれば、少なからぬ意味を持つのではないか。

 今回の被害が国境をまたぐことを考えると、なおさらだ。シリア内戦を巡ってトルコはアサド政権と対立し、シリア側の被災地はもとより政治的に不安定だった。反体制派が拠点として戦禍に苦しむ地域もあり、アサド政権の支援が行き届くか懸念されている。各国とも政治的思惑から離れ、等しく被災者に目配りすることが必要だ。

 日本はどう向き合うか。忘れてはならないのは東日本大震災の際に受けた支援である。

 トルコからの救援隊には、震災直後に宮城県石巻市で行方不明者捜索などの活動に従事してもらった。今回の支援は恩返しの意味もあるはずだ。政府の国際緊急援助隊・救助チームが出発したほか、民間の団体も行動を開始した。また国際赤十字・赤新月社連盟が呼びかける救援募金に協力するなど、私たちにできることはいくらでもある。

 同時に、身の回りにある地震のリスクをもう一度、見つめ直しておくべきだろう。

 トルコは複数のプレートの境界周辺に位置し、多くの活断層が存在する。今回は「東アナトリア断層」と呼ばれる活断層が原因と考えられ、かねて大地震が警戒されていたという。

 日本列島の状況とも重ね合わせたくなる。周辺海域も含めて約2千の活断層を抱え、中国地方でも広島市や岩国市にまたがる「岩国―五日市断層帯」などのリスクが指摘されている。近い将来、起こりうる南海トラフ巨大地震による津波などへの備えとともに、いつ、どこで起きてもおかしくない直下型地震への警戒を緩めてはならない。

 ことし阪神大震災から28年、関東大震災からは9月で100年を迎える。歳月とともに風化しがちな過去の巨大災害のさまざまな教訓を、困難に直面するトルコやシリアの人たちに心を寄せながら思い返したい。

(2023年2月8日朝刊掲載)

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