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社説・コラム

社説 広島市当初予算案 まちづくり議論 丁寧に

 3期12年の集大成。そんな思いがにじむ予算であろう。広島市の松井一実市長がきのう発表した2023年度当初予算案は4月の市長選を前に骨格編成としながら、一般会計で過去3番目の規模だった。6695億9200万円と前年度比1・6%増で2年ぶりに増やした。

 障害者の自立支援など社会保障費の伸びはある。と同時に、松井市長が主導する都心のまちづくりの大型ハード事業を、継続して計上したことが大きい。

 掲げた「都心の大改造」が、形になりつつあるのは確かだ。JR広島駅では南口広場の再整備に81億円超を投じ、25年春の駅ビル開業に弾みをつける。紙屋町八丁堀地区では、中央公園広場でのサッカースタジアム建設に36億6800万円を充てて1年後の開業をにらむ。

 松井市長は記者会見で「ハードはおおかた見えてきた」と手応えを語った。続けて、人口減少や高齢社会の中で「居心地のいいまちづくりが必要」とソフト面の課題を挙げた。弱くなった地域コミュニティーの支援や路線バスの再編など公共交通の対策に手厚く予算配分した。

 4選を目指す立候補を念頭に、次の一手を描いたわけだ。ただその前に、大型投資が狙い通りの効果を生んでいるか、検証も必要である。中国地方の中枢都市としての機能は高まっているのだろうか。

 足元をみると、人口は転出者が転入者を上回る「転出超過」が6年続く。若者が進学や就職をきっかけに東京や大阪圏に出て、地方からの人の流入もかつてほどない。近隣市町と連携し、創業や企業誘致、観光でにぎわいを呼ぶ広島広域都市圏発展ビジョンの事業を含めて、効果の明確な分析が要る。

 今後は総花的でない、めりはりをつけた投資が必要になってこよう。郊外でのアストラムラインの延伸、西区の商工センター地区の再整備と大型投資を続ける方針だ。一方で、市債残高は23年度末に過去最高を更新する見込みを示す。狙いと効果をより掘り下げて説明すべきだ。

 とりわけ市民とのまちづくりの議論は丁寧に重ねなければならない。中央図書館を中央公園から広島駅前の商業施設に移転させる計画では、決め方や情報公開の在り方を含めて、なお疑問は残る。器をいくら整えたところで、市民を置き去りにして、都心のにぎわいが生まれるはずがない。

 節目の予算案を審議する市議会には、まちづくりの検証と、将来の方向性の論戦を求めたい。市民が議論し、判断できる材料を示してもらいたい。

 同時に平和都市としての存在感も問われている。予算案には開幕まで100日を切った先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の関連経費も計上した。

 各国首脳を被爆地に招き、核兵器の非人道性を感じてもらう「迎える平和」が試される。核抑止論や、力に力で対抗する安全保障論が強まる情勢だからこそ、核廃絶と対話を求める訴えの重みは増す。ヒロシマの役割を再認識する場にしたい。

 平和研究拠点として広島大、市立大などとつくるヒロシマ平和研究教育機構(仮称)の中身の議論も始める。サミットを経て、ヒロシマの発信はどうあるべきなのか。その問いに答える市長のリーダーシップが要る。

(2023年2月9日朝刊掲載)

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