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社説・コラム

『記者縦横』 体験型観光 広島に期待

■報道センター経済担当 標葉知美

 旅行って、やっぱりいいな―。昨秋訪れた沖縄県で実感した。新型コロナウイルス禍で遠出を控えていたこともあるが、記憶に残る「特別な体験」が大きい。

 2019年10月の火災で正殿などが全焼した首里城(那覇市)で、観光客もできるボランティアに参加した。焼け落ちた赤瓦の破片を棒で砕き、新しい正殿に使う赤瓦の原料を作った。親子で汗をかき、首里城がぐっと身近になった。「再建したらまた来よう」と誓い合った。

 心に残る体験には、その場所を再訪したくなる力がある。広島市内でも体験型の観光が増えている。例えば旅行会社のたびまちゲート広島(中区)は、中区の平和記念公園を巡りながら被爆前後の街の様子を仮想現実(VR)ゴーグルを着けて体験するツアーを企画。被爆者が減る中、旅行者に広島の歴史を伝えるすべとして可能性を感じる。

 市内の被爆遺構などを自転車で巡るツアーも好評だ。世界的な旅行口コミサイトの日本の人気体験部門のランキングで22年に3位になった。企画する会社の社長は「広島の物語を、特別な体験を通じて学びたい旅行者のニーズは高まっている」と話す。

 地場企業の取材を通じ、広島は製造業や農水産業などの分野でも地域の魅力を発信できるのではと感じている。5月には市内で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれ、多くの来訪者が見込まれる。記憶に残る体験型観光の充実を期待したい。

(2023年2月10日朝刊掲載)

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