×

連載・特集

被爆建物保存 市は後押しを 広島出身の芝浦工業大大学院・安部さん修士論文

「所有者の使命感頼み限界」利活用も共に考えて

 芝浦工業大(東京都)の大学院で建築学を専攻する広島市安佐南区出身の安部竜平さん(25)=東京都=が、民間が所有する被爆建物の保存を巡る課題を修士論文にまとめた。保存に多額の費用がかかる上、「無言の証人」として惨禍を伝える活用はできていないと感じている所有者が多いと指摘。広島市に対し、建物の利活用を共に考えたり、保存工事の補助制度を見直したりしながら、もっと保存を後押しするよう提案している。(湯浅梨奈)

 安部さんは昨年7~10月、被爆建物を管理する企業や寺院などの所有者を対象に聞き取り調査とアンケートを実施。アンケートに24件、そのうち6件の所有者は聞き取りにも応じた。

 アンケートでは、約8割が保存に「意義がある」と答えた。しかし回答の内訳をみると「被爆体験の継承には役立っていない」と考える傾向が強かった。鉄骨造りの被爆建物を工場として使っている企業は聞き取り調査に、建物を平和に役立てる意義は感じるが、経営上の理由で一般見学の受け入れは難しいと明かした。

 耐震工事も、建物の老朽化を受けた保存工事も費用は多額で、維持費が重荷になっていることも浮き彫りになった。ある寺は保存工事の際、市の補助制度を活用したが、総費用数億円のうち9割を自己負担した。所有者は「建て替えた方が安い。さらなる工事は難しい」と答えた。

 市が被爆建物の保存と継承に関する実施要綱を策定したのは1993年。爆心地から5キロ圏内の建物を台帳に登録し、民間所有者に保存工事費として木造で上限3千万円、非木造は上限8千万円までを補助する。しかし登録数は、市や国の所有を含め96年度の98件をピークに現在は86件に減っている。そのうち民間所有が64件を占める。

 安部さんは「所有者の使命感は強いが、それ頼みでは限界がある。被爆建物を取り巻く30年間の変化に合わせ、補助額などの見直しが必要」とみる。「長期的に保存されるには、『残して』と呼びかけるにとどまらず、どうすれば『使う』『役立てる』ことができるかを市も共に考えていくべきだと思った」と話す。

 安部さんは修道高(中区)に在学中だった約10年前、核兵器禁止条約の制定を訴える街頭での署名運動に参加した。活動の際、原爆ドームの壁からかけらが落ちる瞬間を何度か目撃したことが、被爆建物の保存に関心を持ったきっかけという。「核兵器が使われたらどうなってしまうのかを伝える貴重な存在。後世に残す判断材料として、この論文が参考になれば」と話す。

(2023年2月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ