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パレスチナ自治区 民の苦悩伝える 高橋美香さんが写真絵本 「居候」取材20年 光は見えず

 府中市生まれの写真家高橋美香さんが写真絵本「パレスチナに生きるふたり―ママとマハ」(写真・かもがわ出版)を新たに書き下ろした。20年余り中東パレスチナ自治区に通い、普通の人たちにカメラを向けている。「居候」して家業を手伝う取材姿勢を貫き、そこから見える庶民の苦悩と切ない願いを遠い日本の私たちに伝えてくれる。

 「ママ」はパレスチナ自治区のうちヨルダン川西岸地区のビリン村に住む主婦バスマさん。イスラエルが一方的に築く「分離壁」によって土地を奪われた村人の一人で、高橋さんを「うちの居候ミカ」と呼ぶ。

 バスマさんの本来の暮らしはのどかでつましいものだった。ヤギの放牧や養蜂で生計を立て、日々の食材を自給自足していた。高橋さんの写真とパレスチナ人女性の語りでつづられる。

 <今日はそろそろ子ヤギがうまれそう。家畜小屋でお茶を飲みながら静かに待つ。母ヤギの胎内から子ヤギがあらわれたら、出産の手伝いをする>

 だが、彼女の日常は分離壁や国際法に違反する入植地の出現で一変した。抗議する村人たちは兵士に連行され、銃で撃たれ、親戚の中にまで犠牲者が出る。

 <毎朝、祈るような気持ちで(夫や子の)その背中を見送る。だから、なにごともなく一日の終わりをむかえるとホッとする。そのことを神さまに感謝する>

 「マハ」は同じヨルダン川西岸地区のジェニン難民キャンプに暮らす主婦。この地は2002年にイスラエル軍の侵攻を受け、連行された夫は寝たきりになった末に早世する。働きづめの彼女は畑で干からびたオリーブの実まで拾い、わずかな油を換金する。その間も戦闘員となった若者たちは収監され、殺される。

 <もう誰も大切なひとの命を不条理に奪われませんように。みんなが自分の場所でおだやかに笑って暮らせますように>  バスマさんは闘病生活の末、最近亡くなった。あとがきで高橋さんは「パレスチナには希望がない。本書でもどこかにそれを描き出したかったが、絵空事のようでもあり、私にはできなかった」と結んでいる。

 B5判変型44ページ、1980円。

(客員特別編集委員・佐田尾信作)

(2023年2月15日朝刊掲載)

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