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連載・特集

緑地帯 紙谷加寿子 野薔薇のごとく②

 芸大時代、修道院の孤児院でボランティアをするうちに信仰心が深まり、24歳でクリスチャンになった。

 洗礼名は「小さき花のテレージア」。イタリアのローマに留学中は、「テレジーナ」と呼ばれていた。下宿先はフランス系の修道院だったので「マドモワゼル ソッリース」(ほほ笑みさん)とも。

 留学中は、クリスチャンだったため優先的に修道院に下宿することができた。そのとき、院長にシスターの道を示唆された。どうやら、明るくて単純な性格が見込まれたらしい。

 結局、コンクールの日伊声楽コンコルソに優勝したのをきっかけに声楽家の道を歩むことを決意し、シスターにはならなかった。しかし、音楽人生において、キリスト教を学んでいて本当に良かったと思う。ヨーロッパの音楽は教会から発している。また、厳しい音楽の道を歩む上で、信仰心にはどれだけ助けられたことだろうか。

 イタリア語で加寿子という名を説明すると「幸せをもたらす子ども」という意味になる。幸運にも、由緒あるロニーゴ国際声楽コンクールでも銅賞を獲得することができた。帰国後は、エリザベト音楽大に講師としての職を得ることができた。そこは、クリスチャンである私にとって最高の環境だった。入学式で全学生がグレゴリオ聖歌の「アヴェマリア」を歌うのを初めて聴いたときは、感動で胸がいっぱいになった。

 広島で歌い始めて、運命の作品と出会った。故・中沢啓治さんが被爆体験を基に描いた漫画が原作のオペラ「はだしのゲン」だった。(声楽家、野薔薇座代表=広島市)

(2023年2月15日朝刊掲載)

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