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ヒロシマに広がる失望 佐村河内さん楽曲問題 地元音楽界に衝撃

 両耳が聞こえない被爆2世の作曲家として知られる佐村河内(さむらごうち)守さん(50)の楽曲が、別人の作曲だったと分かった5日、地元広島の音楽関係者にも衝撃が広がった。

 「どうしてこんなことに」。広島交響楽団の井形健児事務局長は複雑な心境を口にした。広響は2008年、広島市で開かれた主要国(G8)下院議長会議(議長サミット)の記念コンサートで「交響曲第1番 HIROSHIMA」を世界初演。「テレビ番組などで紹介された佐村河内さんの生きざまと曲調が重なるようで、聴衆の心をつかんだ」と振り返る。

 昨年12月28日には、佐村河内さんの全国ツアーの一環で3楽章構成の全曲を広島で初めて披露。終演後、本人が登場しスタンディングオベーションに沸いた。今月2日には岡山市で演奏したばかりだった。

 作曲家でエリザベト音楽大名誉教授の伴谷晃二さんは、社会的メッセージの強い曲が多く「裏切られたと思う人は多いだろう」と声を落とす。

 09年に中区の平和記念公園近くの河岸で繰り広げられた佐村河内さんの「レクイエム・ヒロシマ」の合唱。広島ジュニアコーラスの谷千鶴子代表は「曲作りを手助けする人がいてもおかしくないとは思っていた。隠していたのは良くないが、音楽の価値は絶対。子どもたちに力を与えてくれたのも事実だ」とする。

 「べートーベンになぞらえた『美談』が、曲自体の評価をゆがめていた印象がある」と語るのは、クラシック音楽に詳しい広島市立大の柿木伸之准教授。10年にネット上に書いた演奏評で、佐村河内さん作とされた曲について「落胆」をつづり、世評とのギャップを指摘していた。「あまりの反響、増幅されるイメージに、本人も言い出せない状況になっていったのでは」とみる。

(2014年2月6日朝刊掲載)

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