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社説・コラム

社説 予算案審議 「丁寧な説明」口だけか

 衆院予算委員会で、2023年度予算案の審議が進んでいる。防衛費増額をはじめ、一般会計で114兆円を超す中身の議論が一向に深まらないのが気がかりだ。

 不誠実な答弁を重ねる岸田文雄首相の姿勢が原因だ。「丁寧な説明」とは口ばかりで、国民がわが身に引き寄せて考えるための材料をあえて示さないようにしているのではないか。政府・与党は今月下旬の衆院通過を目指す構えだが、国民の理解が深まるとは到底思えない。

 何より見えないのが、防衛費増額の中身だ。首相は、昨年末に閣議決定した安全保障関連3文書を踏まえ、27年度までに国内総生産(GDP)比を1%から2%に倍増させる方針だ。5年間で総額43兆円を想定し、23年度は6兆8219億円を計上した。施政方針演説では「安全保障政策の大転換」と言い切っておきながら、予算委での答弁は歯切れが悪い。

 歴代政権の対応を覆して保有を打ち出した敵基地攻撃能力(反撃能力)の発動については、「細かく説明するのは手の内を明かすことになる」と口をつぐむ。敵基地攻撃能力そのものである米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入数も「安全保障上、適切ではない」と言及を避けた。最大で500発程度とも報じられている。なぜ示さないのか。

 一方で、集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」で、相手国にミサイルを撃ち込む可能性を否定しなかった。米艦船が攻撃を受けた時など日本に直接被害が及ばない場合も含まれる。これは、首相が「堅持する」と主張する「専守防衛」から逸脱するのではないか。その点、野党側の追及に対し、「具体的な事態に即して考える」と述べるにとどまった。

 米国側への配慮かと勘繰りたくもなる。防衛力強化はそもそも、政府・与党内の議論だけで決定し、先月の日米首脳会談で国会の議論を経ぬまま米側に伝え、称賛された経緯もある。

 財源確保に向けて表明済みの増税については「税制措置の実施時期を柔軟に判断する」などと明言を避けている。4月の統一地方選を控え、「増税」を口にしない魂胆だろうか。あいまいな説明を繰り返し、手の内を明かさず「白紙委任」を求めるようなやり方は許しがたい。

 予算委で首相の答弁に首をひねる場面は他にいくつもある。

 原発政策を巡っては、東京電力福島第1原発事故後、依存度を低減するとしてきた政府方針を転換。次世代型への建て替えや、60年超の運転期間容認を、これまた国会審議を通さずに閣議決定した。きのうの予算委で野党の「原発利用優先だ」との批判に対し、「安全性大前提は全く変わらない」と語ったが、根拠は示さぬままだった。

 「異次元の少子化対策」では子ども・子育て関連予算の倍増を目指す考えを首相が年明けに表明。政府は政策の骨格を3月に示し、財源は6月に「骨太方針」で示す予定で、国会「素通り」で決めようとしている。

 ともに予算案と直接関係ないが、政府は今後、関連法案の提出を予定する。こんな調子で、肝心な情報を示さないまま審議を進められてはかなわない。首相は姿勢を改め、国民を向いて論戦に臨んでもらいたい。

(2023年2月16日朝刊掲載)

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